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Posted by たまりば運営事務局 at

2013年04月26日

“博士が愛した数式”は、


<ゼロは満ち足りた世界!>
数年前、私はテレビでの邦画"博士が愛した数式”の公開CMに思わず目が注がれました。

主人公である老数学者は、なんと若かりし頃(私も)に、私が愛した?「ルビーの指環」を自ら作曲して歌って一斉を風靡した歌手だったのです。

老数学者は交通事故に遭って、記憶が数十分しか持ちません。しかしオイラーの公式は決して忘れません。

オイラー(1707-1783,スイス)の公式(図、左上)は物理学者のファインマン(1918-1988,米)に“our jewel”と言わしめた美しい数式です。

博士は身近のひとびとをオイラーの等式(図、左上)の文字になぞらえます。それらは無限の小数である無理数と虚数です。

自然対数の底である自分(e)の肩に乗る母屋に住む不倫相手(虚数、i)、そこに加わる家政婦(パイ、π)、ぎこちない空気です。

ある日、家政婦の子供のルートという少年(+1)が現れて博士の心は少年と通うようになります。

博士はルート君が来て、オイラーの公式が自分がこよなく愛するゼロになった、とオイラーの公式でθがπになった時の等式(図、左上)に幸せを感じるのでした。

<エクセルで描くオイラーの公式>
オイラーの公式におけるθの単位はラジアンです。

公式でθが家政婦のπになった時の右辺の計算は、三角関数を勉強中の高校生以外はsinπやcosπの値がすぐ出てこないかもしれません。

心配ご無用です!エクセルなら最初のセルに=RADIANS(A2)として下方にドラッグすれば度からラジアンへ変換されます。
三角関数の値はC2のセルに=COS(B2)、D2に=SIN(B2)の関数式を書くによって値が得られます(図の表)。

cosπ+isinπが-1(表のB6)となるのでe^iπ+1=0が得られることとなります。

さて、エクセルは複素数の計算も瞬時にしてくれます。

cosθを実部,isinθを虚部としてオイラーの公式の左辺を計算してくれるのが関数COMPLEXです。
これも最初のセルに=COMPLEX(C2,D2,”i”)をいれてドラッグします。

また複素面(図、左下)においてz(cosθ、isinθ)の絶対値z、|cosθ+isinθ|を計算するのがIMABSという関数式です。

表のようにオイラーの公式は複素三角関数の絶対値が1となり,またもや美しい結果に出会えました。

図、右上はθ(度)を横軸にcosθと(青)isinθ(赤)、IMBASによる|z|(紫)を作図しました。

なおこの公式を時間変化で視覚化した立体画像を利根川先生から頂きました。青線は実数成分のコサイン波、赤線は虚数成分のサイン波、緑線が左辺の指数関数の虚数乗、を表わしています。
 
なぜか私達は波模様に安堵を感じます。

<世界は波動で満ちている!>
太陽光も、ラジオも、携帯も電子レンジもすべて波動の恩恵ですから私たちは波の中に生きているといっても過言ではありません(本ブログ)。

物質のふるまいをシュレジンガー(1887-1961,オーストリア)は波動関数として表しました。

音の波は健康に関係が深いようです。

音楽療法やタンゴのダンス療法が欧米で盛んとなっています。脳波が変わるのでしょうか。

その認知症予防効果については、音調による交感神経と副交感神経のバランス効果と互いを支えるダンスの踊りによるオキシトシン(ホルモン)放出増大のなせる業、ともいわれています。

日本人だから「オイラはよさこい節ダイ~」も・・アリかもしれませんね。

ところで音を‘見る’ものに出来ないものでしょうか。

<楽譜のフーリエ表記!>
フーリエ(1768-1830,仏)は全ての波は三角関数の波成分に分けられると考えました(図、中央)。

複音ハーモニカは上と下の段ではわずか周波数が異なる音が出て、日本的で哀愁のある音色が特徴です。舌を使うといろいろなハーモニーを奏でることができ(図、右下)、舌先を動かすタンギング奏法やマンドリン奏法もあります。

佐藤秀廊先生が昭和2年の世界ハーモニカ大会に渡欧して優勝なさった時に、その日本式複音ハーモニカを聴いた外国人達はその音の複雑さに驚き、何枚の舌で演奏したのか見せろ、と口の中を覗いたそうです。

その位複雑な音を出せる素敵な楽器なのですが簡単には上達しません。正しいハーモニーになっているのかきちんと周波数成分に分析して模範との比較がモニターとして目で確認しながら練習できれば耳に障害のある方のみならずもっと多くの方に楽しんで頂けるのではないか、と思います。

演奏は自・他の脳活動が変わり脳波も脳磁場も変わるように感じます。

最近、脳磁界の微量の変化を周波数解析できるようになりました。

<脳波や脳電磁波のフーリエ解析>
波動は複素数の波ともいえます。

波はフーリエ変換すると複素指数関数である時系列データから複素三角関数の和に表されます。そこではオイラーの公式が役立って、波動関数が代数的に計算出来るようになるのです。

このフーリエ変換によって脳磁界波から脳磁図が得られます。

近年は精神疾患の増大が著しく診断も治療法も混迷しています。統合失調症(精神分裂病)とうつ病との区別でも困難が多々です。

神経細胞群の活動の異常を脳電磁波の異常として検出して、波成分に分けて分析すれば疾患の非侵襲的な良いマーカーです。

健常者と統合失調症、うつ病患者で脳電磁波の高速フーリエ変換を行い、α、β、δ、θ波を比較し定量的に計測しました。統合失調症とうつ病ではいくつかの脳表面部位でδ波による違いがあることが分かりました(参考の表2)。

診断がつくと治療法も適切となります。

今後、更なる精度を求めてノイズの除外方法、統計・確率の計算やパラメーターの解析法、そして周波数域の拡大などの研究が進められるとより微細な機能変化の解析が可能となることでしょう。




  

  • Posted by 丸山 悦子  at 23:43Comments(0)エクセルはエクセラント

    2013年03月27日

    免疫力がヒトの生・死を決める

    <生き存えるべきか、さもなくば死すべきか、それが問題なのだ・・・>
    “To be or not to be,that is the question”は シェークスピアの悲劇 ‘ハムレット’の余りにも有名な台詞です。
    生死の選択の苦渋に喘ぐハムレット、そこには強い意志が感じられます。

    私たちはといえば意志とは裏腹に、複雑社会がもたらすストレスによる免疫力の低下によって生死が決定されてしまう、という悲劇の主人公にも思えます・・・


    免疫力は治癒力ともいわれます。

    健康は、血液に乗って体中を巡っている免疫細胞のさじ加減ひとつ?によるわけですね(図、左)。

    ではその免疫細胞の具合を探って健康の指標を得ることは出来ないものでしょうか。

    廣川勝昱先生は血中の免疫細胞の数と機能、比率をスコア化して健康状態が評価できることを発明されてベンチャーを立ち上げました(参考)。

    <免疫細胞は健康の見張り役>
    免疫システムは、生物が数十億年かけて生き残りを懸けて培ってきた、免疫細胞たちの複雑精緻な連携による、疾病から身を守る防御の仕組みにほかありません。

    免疫細胞にはウイルスに感染した細胞を殺すキラーT細胞や癌細胞を退治するナチュラルキラー細胞などがあり常にパトロールしています(図、左中央)。ですから不摂生などして活性酸素の増大やストレスに曝されるとパトロール能力が低下して、細胞を元気にする生理活性因子が出せなくなり、発症を抑え切れなくなるのです。

    さらには血液中のリンパ細胞が減少して免疫抑制に傾いてしまうと次の進入に備えられる抗体の産生が出来なくなってしまいます。

    病原菌に一度かかると二度とかからない仕組みは獲得免疫といいます。B細胞が感染を記憶していて二度目に感染するとすぐさま大量の特異抗体を産生して無毒化するのです(図、中央)。

    当然ながらその抗体産生能力が発揮できなかったら、炎症が進み、異常細胞が増え、生活習慣病やアルツハイマー病、癌などが進んでしまいます。

    がっちりとスクラムを組んでいるような免疫細胞ですがこれだけに注意を注いでいれば安心でしょうか。

    私は、その監視の網の目をくぐってしまった?生体の異常を何とか早期にキャッチ出来ないものかと考えます。

    <認知症の予防、早期発見、治療への道>
    高齢化社会を迎えて、認知機能が低下し生活の質が低下してしまった方がとても増えています。癌人口も増大です。

    疾患の予防はもちろん早期発見をそして治療の経過をきちんとモニターすることが重要です。

    いくらゲノム解析がベッドサイド化されてもダメです。生まれ持った個々の遺伝子ではなく遺伝子の発現物である蛋白質が刻々とストレスや他の分子の影響を受けて変わっていくのですから。

    まず疾患特異的バイオマーカーの発見が必須です。さらに特異的な超微量測定法を確立しなければなりません(本ブログ)。

    その戦略のひとつに、上にあげた、自己以外を認識する抗体の利用があります。

    免疫機構の進化の産物である、哺乳類の特異抗体を作る能力とその抗原との結合力の強さを鑑みて、抗体を疾患特異試薬として利用するのです。

    しかし私達の抗体の基本構造(図、右上)は、その分子量の大きいことや抗原認識の複雑さ(重鎖と軽鎖の二本づつからなっている)のために抗体エンジニアリングを行って試薬とするには容易ではありません。

    ところがです!何とラクダだけは違ったのです。

    ラクダのリンパ球は軽鎖のない免疫グロブリンも作っていたのです(図、右上、中央)。しかも単鎖の可変領域(VHH)だけでも抗原認識力が十分あったのです。

    いざ、抗体工学で出陣です!

    標的分子が免疫されたラクダリンパ球から得た抗体遺伝子をファージ(大腸菌のウイルス)に発現させてバイオパニング法でスクリーニングします。
    ナノボデイと呼ばれる単鎖抗体が得られるようになりました(図、右下)。

    ラクダのおかげで楽だったのです~

    すでにいくつかのナノボデイが大腸菌をファージの宿主としてクローニングされました。

    <抗体エンジニアリングによる抗体医薬の開発>
    プロテインカイネースC エプシロン(PKCε)は脳の学習と記憶の場であるシナプスの形成に重要な蛋白質燐酸化酵素です。

    シナプスが壊れ、Aβが蓄積していくアルツハイマー病でこの酵素の活性の変化が関与していることがわかってきました(参考)。

    その酵素活性を制御できる試薬が作れれば認知力が回復するはずです。

    ヒトPKCε組み替え蛋白質で免疫したラクダ科のリャマから取れたナノボディのクローンはヒト特異的で、いくつかはPKCεの触媒部位を認識し、その中には酵素活性を活性化するものと抑制するものがありました(参考)。

    これらラクダ単鎖抗体は15~12kDと極めて小さく、血液脳関門(本ブログ) を通過出来るだけでなく細胞内に入れることも可能と考えられ、神経変性疾患の医薬品としての期待が一挙に高まっています。

    今後、産官学などの連携による力で、ラクダ抗体やナノボディを用いた疾患医薬や分析技術が大きく発展するに違いありません。


    "ミモザアカシア"
    木々の景色はまだ冬という二月に、いち早く咲き始めます。

    まさに春告げの樹です。

    今は桜にバトンタッチしました。

      

  • Posted by 丸山 悦子  at 23:06Comments(0)ベンチャーはアドベンチャー

    2013年02月22日

    男・女の脳の違いは~

    <ボクは、教わらないことが出来たョ>
    エスカレーターで2歳くらいの男児が足を出せないで困っています。赤ちゃんを抱きかかえたお母さんはもう下についてしまいました。心配そうに見上げています。

    女の子なら、私なら、お母さんに逆に上がってくるようにわめくか、パニくるかでしょう。

    彼はじっと足元の動きをみつめています。しかしどうしたって、一歩が出ません。

    私が抱えないとダメかな、と思いながら近づいたとき、そのとき、

    彼の脳はひとの気配を後ろに感じて猛烈にフル回転、その一瞬、身体と協調した神経回路によって思わぬ行動決起が!!!

    ストン、と足を前に出して座ったのです。まさに思考を超えたとっさのひらめきの動作でした。

    すると次は自ずと足が折れて、まさに椅子にお座りとなりました。私は思わず、アッタマ、イイ!と拍手喝采しそうになってしまいました。

    動く椅子は、それはそれは気持ち良さそうです。さりとて、来なくても良いのに終点は刻々と近づいてきます。

    のんびりしている場合ではありませんョ!

    つんのめるのかな、大怪我にはならないだろうな、でも泣くだろうな、などいろいろと脳内をグルグル。

    私は先端を指差して「Watch!」と坊やに囁きました。その子はどうしたと思います?

    スっと立ち上がって、先端を凝視したかと思うとその子はポーンと前に跳んだのです。

    バシッ、両足着地に成功、やった~。

    快楽の神経伝達分子であるドパミンが彼の脳に溢れました、全身が満身?の笑みです。

    新たな成功体験の神経回路が彼の脳に刻まれました。

    お母さんが「良かったね」「ありがとうございました」と言って赤チャンは片手にして坊やと手をつないで去っていきました。

    私は彼の着地点をみて、小さいのに随分遠くまで跳べたなあと思ったのでした。

    ニュートンによる慣性系の運動の法則によれば垂直に飛び上がるだけでよかったのかも・・(図、左上②)。
    エスカレーターの分速を毎分30mとすると垂直に0.5~1秒間飛び上がっていれば自ずと25~50cm先に着地出来るはず・・・・
    思う以上に遠くに着地出来たわけも(①)、後ろに身体が残る下りエスカレーターの怖さも慣性の原理によるのですね。

    それにしても、教わったことさえも思うようにならないのが脳です。

    初めてなのに、計算尽くされたかのように行動がとれた彼の脳にどのような仕組みがあったのでしょうか、いったいその場所はどこなのでしょう。

    <運動の開始と終了をプランニングする脳>
    ヒトがほかの動物と違うところは大脳の発達であり、特に大脳新皮質の前頭前野が理性と高度な認知力を司るヒトの人間たるところ、と教わりました。

    男女の脳については、ものごころがついたときから女の子はお人形の着せ替え、男の子は動くもので遊ぶ、という違いがあるそうです。

    坊やの行動は、身体座標を繰る潜在能力というのでしょうか、その無意識の咄嗟の身体判断には今までのいろいろな遊び体験が活用されたのに違いありません。

    ところで宇宙に行ける時代になったのにヒトの高次機能の脳地図も男女の脳における構造の違いも未知です。

    近年、サルの実験などにより、頭頂葉(図、左下)が空間感覚と視覚情報を統合して指示決定をして、運動経験から無意識の行動が取れるようにする部位、と考えられるようになりました。
    そこにはミラーニューロン(本ブログ)もあるともいわれ、その訓練や発達によってひらめきの動作が磨かれるようです。

    坊やの脳はその辺がきっと鍛えられていたのでしょう。

    実は、最近アインシュタインもこの頭頂葉が他の人より発達していたことがわかりました。

    アインシュタインが1955年に亡くなった時の脳の新たな写真が見つかったのです。シワが深く広がっているという特徴が前頭前野と頭頂葉の後方に位置する下頭頂小葉で明らかだったのです(参考)。

    そこは思考実験のモデル化や文の意味の理解、数学や空間予測に関する認知に関する部位と考えられています。

    天才の中の天才と言われるアインシュタインの脳におけるこの新知見は、まさにFalk博士の眼力という人間ワザの賜物です。

    そういえばあの坊やの顔はどんなだったかな、こんなだったかな~

    <浦島太郎を説明するアインシュタイン>
    浦島太郎が歳をとらなかったのはどうしてだったのでしょう。どのような乗り物で竜宮城に行ったのでしょう。
    アインシュタインは、静止系と運動系の座標系において光速度不変を認めるなら(図、右上: A,Bが同時に光を発してBは速度vで移動するが速度が変わらない光をB‘で見ることが出来る)、時間が変わると考えたらつじつまが合う、とひらめきました。一般相対性理論です。

    では浦島太郎はどの位の速度で竜宮城に行ったのでしょう。エクセルで簡単に計算できます。

    もし光速(30万km/sec)の0.999倍で行ったとすると浦島太郎の一年は、待っていたひとの二十二年となります(図、右下)。
    いったい、この光速の0.999倍は可能なのでしょうか。現在では最も早い探査機(~15km/sec)でも光速のたったの20000分の1のくらいのようです。計算結果からは(表のセルのC4)時間の遅れはなきに等しいです。
    有人ロケットの速度はさらにずっと遅いので時間の変化は極めて小さいものとなり、ニュートン力学の世界で済みそうです。
    量子の世界となるとアインシュタインの理論を越えた理論が必要かもしれません。

    <オバマ大統領の‘脳地図’プロジェクト>
    宇宙開発の次は脳開発?です!!
    先日オバマ大統領が宇宙開発競争に匹敵すべく「脳の活動地図」の研究に投資したい旨の政策内容のニュースが報じられました。

    その案は10年計画で30億ドルです。

    どのような思いもよらぬことが出てくるかと今からワクワクです。

    構造よりは分子マップによる脳情報の変化が時空間的に得られるかもしれません。

    そして自分の脳地図を画き替え、修正もできるようになりましょうか・・・・・

    やはり、脳障害者の治療や適切なリハビリの方法、そして脳の仕組みを利用した自律型ロボットの研究開発が進んで欲しいですね。


    “胡蝶の舞”

    新年になると庭先では“胡蝶の舞”の先端がほんのりしてきます。

    グラスに挿しておくと根がモジャモジャ出てきて何ヶ月もピンク色の葉を愛でることが出来ます。
      

  • Posted by 丸山 悦子  at 22:19Comments(1)長寿健康社会

    2013年01月19日

    ビバ、オイルの時代

    <油とは・・・>
    遂に、世界(米国?)はシェールオイルの実用化に成功しコスト面で石油を超えられそうだ、と湧いています。
    石油(原油)は油田から汲み出しています。今後は鉱床の岩石から水や混合物からオイルを分離することによっても石油が得られるのです。

    オイリーな肌、ノンオイルドレッシング、あぶらを売る、水と油の仲、そして醤油にも油の字が・・これは当て字?
    はたまた最近では、‘揚げ物は健康に悪い’などと油は生活に密着してきています。

    石油の油はといいますと食品の油とは全く異にする高エネルギー天然資源物であり経済活動の基盤となる物質です。

    石油は地球の奥深いところで高圧高温によってできた過去の動植物などに由来する炭化水素化合物です。

    一方、油脂は脂肪で、脂肪酸とグリセロールのエステル化合物なのです(図、左下)。

    <油の分子構造>
    私たちは常温で液体の脂肪(図、左の中央)を油といい、その脂肪酸は不飽和脂肪酸(アルキル基の炭素間に一つ以上の二重結合を持つ)であり、一方、常温で固体の脂肪を脂といい飽和脂肪酸からできます。

    石油も油脂(脂肪)も水に溶けないことを特徴とし、それは極性が極めて高い水分子同士がつくる水素結合に切って割り込むことが出来ないためです(図、左上)。

    また脂肪(油脂)も石油も酸素を使ってエネルギー源となります。

    体内では私たちは食事から得た脂肪や蛋白質、炭水化物からATPを作って活動のエネルギーを得ます。
    脂肪の分解によって出来る脂肪酸は各細胞のミトコンドリアに運ばれてATP産生(本ブログ )に役立ちます(図、右中)。

    ですから、つまめば電話帳~、という私のお腹の脂肪は冬山で遭難の時にはきっと役立つはず、と思いきや・・・ナント

    <不健康の原因は脂肪細胞に有り>
    生活習慣病やアルツハイマー病が増加している原因として、高齢化と食事の欧米化が挙げられています。

    カロリーの取り過ぎ、運動不足による脂肪の異常蓄積は脂肪細胞の代謝を害して癌やアレルギー疾患、血管の脆弱化、糖尿病をひきおこします。
    脂肪細胞が脂肪の貯蔵だけではなく健康維持のための多くの分子を産生して分泌しているからです(図、右上)。

    その中のレプチン(通常はホモトリマー)は血中を経て脳の視床下部のレプチン受容体に情報を与え食欲の制御を行います。ですから脂肪細胞が‘調子狂えば’当然ながら・・・

    肥満が生活習慣病の元凶となるわけですね。

    現代人の食生活は、魚に豊富なオメガ3系の脂肪酸、特に必須脂肪酸であるα―リノレン酸の摂取比率が低下しているそうです。肉食だと油でなく脂やコレステロールを多く摂る事となってしまい動脈硬化が起きやすくなります。

    体内では多種多様の生理活性脂質が脂肪酸から生成されて細胞の健全性を維持しているので食事から得る脂肪酸の種類は極めて重要です。

    体内で合成できないために摂取しないといけない脂肪酸である必須脂肪酸にリノール酸とα―リノレン酸があり、それぞれ18:2(n-6),18:3(n-3)と記します。炭素数が18でカルボキシル基(-COOH)と反対側(オメガ)のCH3からそれぞれ6,3番目のCに二重結合を2,3個持つ脂肪酸となります。αはその異性体の中で最初に同定されたリノレン酸であることを意味します(図の右下)。

    体内でα―リノレン酸からできるものに脳細胞を作り充実させるのに欠かせないEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)があり、それらはオメガ3系不飽和脂肪酸です。

    脂肪酸が健康や発達にどう影響するか、多くの研究がなされてきました。
    母親が、オメガ3系の脂肪酸に富む魚や魚油の摂取が低下していると産後うつや胎児や新生児の脳神経の発達が影響されると報告されました(参考)。食物中のα―リノレン酸の量が重要ですね。

    <脳ミソはあぶらっこ~い>
    脳ではその構成成分の60%が脂肪酸を成分とする脂質が占めています。

    記憶や学習を司どる神経シナプスによる情報の伝達では脂質の種類に影響される、細胞膜の流動性や膜内に内在する受容体の環境がとても重要です。

    オメガ3系脂肪酸の認知機能における役割が動物やヒトで研究され、最近、高齢者のうつ発症(本ブログ)による認知機能と赤血球膜のオメガ3系脂肪酸のレベルが相関することがガスクロマトによる測定でわかりました。血液の血漿レベルには変化がでませんでした(参考)。

    今後、このことがうつ病の検査として利用されたり、食事の摂取状況が分子レベルでモニターできたりすると生活習慣病が予防され素晴らしいことです。

    α―リノレン酸はキャノラー油(菜種油の一種)や大豆油に、肉類ではマトンやラムに、魚では鮎やアンコウの肝に多いそうです。お刺身が良いですね(きっと不飽和脂肪酸の酸化率が少ない)。

    どの位の量を、どういう時期に摂るべきか、どうすれば治療に使えるか、課題は手にありあまります。

    脂肪酸代謝を繰る酵素の生化学や未知の生理活性分子の発見と機能同定が欠かせません。

    そして測定法の簡便化や個人レベルのデータベース化が必須となりそうです。
      

  • Posted by 丸山 悦子  at 23:40Comments(0)長寿健康社会

    2012年12月14日

    あっと、言う間に出来る統計解析~

    <統計学の必修化>
    文科省は、小学校低学年からの統計学教育の必修化を定めました。

    統計学的な見方や考え方で情報を処理すれば物事の関連性を把握する力や新しい仮説を創造する力が育まれる、と言うわけです。

    一歩社会に出れば統計学は、企業においては在庫管理やデータのマネジメントで、そして競合や市場の分析になくてはならないものです。

    嬉しいことに、手計算の苦労やどの手法が良いのか迷った‘あの頃’とは違って今では、エクセルをクリックするだけ?そして統計解析のソフトがけっこう巷に有ります。

    研究や開発においてはデータのより詳細な情報を得るために分散分析(ANOVA)をした後のpost hoc testとして多重比較法が有用であることが示されました(参考 )。

    <t-検定の繰り返しはダメョ、だから多重比較法>
    2標本(群)の平均値に違いがあると言えるかどうか、を検定する方法としてt-検定がありエクセルに搭載されています(本ブログ)。
    では3標本(群)以上の時にどれとどれに違いがあるのかを知るにはt-検定を繰り返せば良いのでしょうか。
    これは第一の過誤と言われ補正が必要となります。

    有意水準をαとしていた場合k回検定を繰り返すと1-(1-α)^kの水準にまで下がってしまいます。4群の検定なら危険確率0.05は0.265と甘くなってしまうのです。

    そこでP値に補正を加えたBonferroni法やHolm法があります。

    もちろんエクセルに多群解析法としての分散分析があります。しかし分散分析法はどれとどれに有意差があるかは出ません(本ブログ)。
    そのブログに載せた畑と肥料における収穫のデータにおける分散分析の結果は、列と行で、すなわち行(畑間)で有意に違いがあることのみが示されてきています。

    そこでpost hoc testとしての多重比較法が役立つのです。

    F統計量を使う分散分析と違って、Tukey法は全てで対比較を行う多重比較法です。

    そこでエクセルの二元配置の分散分析を行った先程の畑と肥料という2要因を持つデータを使ってTukey法による解析を行ってみました(図、左下に結果の一部)。
    畑2,3で有意差があるといえることが分かりました。

    多重比較の解析法はエクセルに入っていませんので阪大MEPHAS統計解析プログラムを使いました。
    またプログラミング言語RやRコマンダーによる解析ソフトであるEZRを用いると第一種のエラーを補正したBonferonni法やHolm法が行えます。
    このEZRによる解析結果からは帰無仮説の棄却は保留とするのが良いと判断されました。

    Tukey法とは検出力に違いがあることが分かります。

    <ラボで役立つ統計学>
    ものごとの関連性を掌握したい、そして新たな法則性を導きたい、それを利用して人間活動を躍進させる、それがヒトの脳が持つ社会性です。

    確率と統計こそが、その事象は偶然によるのではない、何か背景に潜んでいるゾー、を確かめてくれるのです。

    大発見かも!

    インスピレーションに思わずこころが踊ったとき、女神の微笑みは危険確率P値、0.05や0.01として確定されます。

    さて研究室の実験や、治療薬の開発では、コントロール群と二群以上の他条件処理群で違いがあるかを調べることがしばしばあります。

    図、右上の場合のような対照群と多群の対比較が出来る多重比較法がDunnett法です。

    このデータも阪大MEPHASプログラムで解析してみました。対照群と第二群に有意差があることが分かりました。

    ヒトサンプルはそれに影響を与える要因が多く個人差が大きいため、診断薬や治療薬を開発するための疾患マーカーの確定への道のりは容易ではありません、そこでもDunnettの多重解析法が有用でした。

    <統計解析が疾患メカニズムの解明と創薬、治療法を前進させる>
    統合失調症や躁うつ病、うつ病患者の死後脳の神経ステロイドの代謝産物を測定してANOVA解析とDunnett法で解析したところ代謝分子が疾患の候補分子となることが分かりました(参考)。

    統合失調症患者と躁うつ病患者の死後脳の後帯状皮質頭頂皮質においてプレグネノロン、DHEAが有意に高いと言う結果でした(上記参考のTable3)。

    神経ステロイドは脳内でコレステロールから作られて、神経細胞の発達やシナプス形成に関与し、記憶や学習機能に関与していることが知られている分子です。

    こうして研究者が見つけて、取ってきた分子を解析すると未知の扉が少しづつ開いていくのです。

    万能な統計解析法はありません。検定をする時はデータの正規性、等分散性、標本数、群ごとの標本数が異なっていないかなど、データの性質を鑑みてそれに適した解析法を選ぶことが肝要です(図、左上)。

    通常の実験室のデータ解析では正規性の検定を行うほどにはサンプル数がなく、また生物学的な現象は正規性に近いのでパラメトリック法が使われます。

    明らかに正規性に従わないときはノンパラメトリック検定法が使えますが検出が下がります。

    上記論文では神経ステロイドの測定値の対数を取ってパラメトリック検定が出来ました。サンプルデータの分布背景の情報が得られることも大切です。

    <外れ値がもし除けたなら・・・>
    実験データでは時に飛びぬけた値に遭遇することがあります。
    これが外せれば有意差がでるのにな~、おっと、これはいけません。どんな真実が隠れているかも知れないのですから。

    平均値から2σや3σ(本ブログ)外れていたら除くという場合もありますが・・・

    水準値を決めて、外せるかどうかを検定できるのがスミルノフ・グラブスの検定です。エクセルで一瞬の計算で判定できます(図の右下)。

    通常はT値を得てその基準値におけるスミルノフ・グラブス数表のαの値から判定します。

    しかし表がなくてもその横の数式を使うと好きな水準値における片側P値におけるαの値が計算できます。
    エクセルの関数式、T.INVを使えば、それはt-分布の自由度n-1,P(片側)の確率から確率変数を逆算する関数なのでTα/nが求められます。
    そこでエクセルのfxの隣のセルにイコール以降、図のように書けば一瞬のうちに数表のαの値が計算されます。

    図の最下端のエクセルの挿入図ではnが10、P値を0.05とした場合です。T.INVにはP/nとn-1の値をいれます。T値がαより大きければ外せることになります。

    何とかものを言おう、とデータを眺めて四苦八苦するよりは、最初に検定法まで見据えた実験計画を立てることで、ラクチン?統計解析がより実りある結果を導くに違いありません。

    とにかく、どんなサンプルデータも一期一会、貴重な情報であることを銘記して、未知の情報を掴みましょう。




      今年の柿の実は一回り小さいもののぎっしりと付きました。
      
      とて~も甘~いのでシジュウカラもメジロもスズメもヒヨドリもオンパレード。
      
      夏の頃からカラスの勘クロウが数を数えていました。

      食べごろを迎えて、

      縁側では夫と勘クロウのサル・カニ(カラス)合戦?が始まりました。
      

  • Posted by 丸山 悦子  at 22:49Comments(0)エクセルはエクセラント

    2012年11月13日

    長息が長生きの理由

    <ミトコンドリアが命を作る!>
    私たちが活動できるのはミトコンドリアがATP(アデノシン3燐酸)を作るから、と学校で習いました。

    ミトコンドリアは大腸菌ぐらいの大きさで細胞の中でウジョウジョと何百、何千とひしめき合って融合したり分裂したりしています(図、右上のニコン社のN-SIM超解像ライブセルイメージング)。

    運動選手の細胞内には元気なミトコンドリアが沢山とかーー

    ところで動・植物のミトコンドリアや植物の葉緑体の起源は、それらのゲノム構造やヒストンがないことなどから、大昔に私達の祖先の細胞に入り込んだバクテリアである、と考えられます(図、左上)。

    地球上に酸素が増え始めた20億年前頃、真正細菌は酸素を使ってエネルギーを作れるプレシャス?細菌でした。そこでそのワザが欲しい古細菌が一緒になりましょう、お願いします、と・・・・パクリ。

    さあ、元気百倍(10倍?)、多細胞生物にだってなれるゾ~

    というわけで私たちの祖先の誕生です。

    <母は強し。。。>
    不思議なことに私達の身体のミトコンドリアは全て母親由来です。

    一個の卵細胞には何万とミトコンドリアがあります、しかし受精にあたっては父親からのミトコンドリアは入っても用なしです、とばかりに排除されてしまいます。

    核の遺伝子は父と母から1セットづつなのにミトコンドリアの遺伝子は母親と同じもののみ・・・

    さらなるミトコンドリアの特徴として、分裂が激しいのでその遺伝子変異が極めておこりやすいことがあります。
    卵細胞のミトコンドリアを傷物にはしたくありませんね。おくるみしておきたいほど愛しい?。。。

    貴女の細胞環境は良好でしょうか?

    <共生による大躍進>
    さて20億年前の細菌同士の合併・吸収はその後どうなったでしょうか。

    解糖系だけだと2個のATPしか作れないのが好気細菌の電子伝達系とATP合成、すなわち酸化的燐酸化の能力が加わったおかげで10倍以上増産できました。

    飲み込まれた真正細菌の膜にあった電子伝達系、いわゆる呼吸鎖はミトコンドリアでは内膜上に位置することとなります。
    複合体ⅠからⅣまでの大きな蛋白質の酸化還元反応によって電子が複合体Ⅳまで流れるとともにプロトンが膜の外に汲む出されることになります。
    内膜と外膜の間に貯まったプロトンは勾配によって複合体ⅤといわれるATPエースに入り込み、酵素の構造を変えて活性化しATPを産生するのです(図、左下)。

    M&Aの成功です。さらに新たな拡大も。。。

    やがてミトコンドリアは、障害が修復できなくなると自らを殺すプログラムを獲得しました。ホストの核で合成された細胞死を実行する蛋白質をミトコンドリアに局在させました。いわゆるアポトーシス実行部隊が完備されたのです。

    こうしてミトコンドリアは細胞の生死の制御を繰るようになりました。

    癌やアルツハイマー病、パーキンソン病の原因もミトコンドリアの異常によるといわれています。

    <アルツハイマー病で障害されるミトコンドリア複合体Ⅳ>
    M & Aによる成功戦略はミトコンドリアが自分で生きていかれる遺伝子のほとんどをホストの細胞の核に移動させたことにあるかもしれません。
    呼吸鎖がうまく働いていても活性酸素が生じ、DNAなどの障害の原因となります。ホストの核にDNAを非難させておけば安心して増殖できる・・・

    今やミトコンドリアではたったの13個のミトコンドリア遺伝子で蛋白質を発現するのみです。ですから呼吸鎖の各複合体の構成蛋白質は核の遺伝子と自前の遺伝子によって作った混合です。

    呼吸鎖で電子を受け取る最終アンカーの複合体Ⅳ(図、左下)はサイトクロームcオキシデースです。13個のサブユニットからなる分子量25万くらいの大きな内膜貫通型の蛋白質です。
    ウシ心筋のサイトクロームcオキシデースの膜内構造が示されました。

    最近、そのサブユニット1(左上をクリック) にアルツハイマー病で蓄積してくる原因分子のAβペプチドが結合するという論文がでました。結合場所は電子をこの酵素が受け取るコア部分です(参考、図の6)。

    肝心要の呼吸鎖に他の分子が結合して電子の流れが障害されると、ATPが出来なくなるばかりでなく活性酸素が沢山発生し、ミトコンドリアの活動のみならずDNAも障害されることとなります。ちなみにこのサブユニット1はミトコンドリアにある遺伝子が作りますからAβの結合はこの遺伝子にもすぐ影響しそうです。
    神経細胞で障害が修復しきれなくなると神経細胞死がおきます。神経変性疾患となり痴呆がすすみます。

    私たちは日頃から細胞内の抗酸化力を高めたり、サイトクロームc酸化酵素が電子を受け渡せるように酸素を十分供給することが重要となりますね。

    ため息ではなくして長息で、元気なミトコンドリアを細胞にいっぱい増やしましょう!


    白い花が大好き、とおっしゃられて細川先生は朝鮮朝顔と永良部(高砂?)百合の種を下さいました。

    75歳を越えてもエピジェネティクス研究のためにヒストン修飾の膨大な数字データの解析をしていらっしゃった先生のお姿が重なります。

    光陰矢の如しです。

    分析器械は精巧化してきますが測定に賦する標品の調整はいまなお生化学のなせるわざですね。そう思って科研費の獲得にも頑張っています!!
      

  • Posted by 丸山 悦子  at 23:28Comments(2)脳神経生化学

    2012年10月12日

    細菌が脳卒中をおこす!!!

    <生と死は紙一重・・・>
    脳梗塞は戦後5倍にも増大しました。

    脳梗塞は脳出血、くも膜下出血、一過性脳虚血発作(脳梗塞の前兆)とともに脳卒中といわれ、脳血管障害に分類されます。

    脳卒中は後遺症が治らず生活の質を著しく低下させてしまう疾患です。

    厚労省の脳卒中のページを開けてみましたら‘脳卒中は生活習慣病だ’の字句が目に飛び込んできました。
    リスク原因がいろいろ挙げられています(図、左上)。

    30代の頃、品行方正のお友達がくも膜下出血で脳をかぱっと開ける手術をしました。

    激しい頭痛で自ら救急車を呼んで病院へ運ばれると、たまたま脳外科医がいて直ぐ開頭したそうです。

    そしてベッドの上で気がついた時は数ヶ月が経っていたとのこと。その間の記憶だけは全く思い出せず・・

    お子さんもまだ小学生でした。脳血管は金属クリップで止めてあるので笑っても怒っても駄目、プールもいけないので大変、と話していました。

    会うといつも生死を分けた一瞬の良い判断を喜び合います。

    <神経細胞死を防ぎたい>
    脳卒中は1980年まで死因一位でしたが医学が進み、死亡率は確実に減っています。しかし患者数は癌患者なみに多いのです。

    現在、65歳の日本人の余命は男性が19年、女性は24年もあります。江戸時代なら0年です・・・

    寝たきりや半身不随で過ごしてよいのでしょうか。

    加齢になって長期の高血圧などで脳の細い動脈に血流障害が生じて神経細胞が死ぬと日本人に多い血管性痴呆となります。欧米ではアルツハイマー病の痴呆が多いですね。

    何とか予防や予知が出来ないものでしょうか(本ブログ)。

    脳内毛細血管の長さは地球二週半もあるといわれています。

    無数の毛細血管は見えませんが脳内血管の映像(右内頚動脈の側面像)です。

    動脈硬化(図、左下)で血管内腔が塞がり、その先の脳細胞に血液が送れなくなると脳細胞は酸素欠乏と栄養不足になります。この状態を脳虚血といい、しばらくすると脳細胞は死に脳梗塞になります(図の右下、上)。
    脳出血の場合も局所的な環境の悪化で神経細胞が死にます(図の右下、下)。

    その場所が運動に関係するところなら運動麻痺が起こり、感覚に関係があればしびれなどの知覚障害が、言語に関係があれば言語障害(失語)がおこるということになります。

    治療は血管内に血栓が詰まる脳梗塞では血栓を溶かしたり、固まらないように治療します。血栓溶解療法・抗血小板療法・抗凝固療法などがありますが生体が持つ複雑な連鎖反応があるためまだ制御がとても難しい治療です。

    <ミュータンス連鎖球菌が脳出血を起こす!!!>
    驚きの論文を目にしました。

    ミュータンス連鎖球菌は口の中にモショモショ沢山いる虫歯菌です。
    虫歯菌の中にコラーゲン結合蛋白質を合成する菌があります。

    血中のその菌は動脈硬化や高血圧で血管壁に傷がついたとき、その部位ではコラーゲンがむき出しになるので結合するとのことです。

    普通は傷を治すために血小板が集まってくるのに菌が傷に集まり、血小板の集合を抑制してしまうのです(図、右上)。それで傷口から出血が止まらずに脳卒中となるわけです。

    中野博士らは疾患モデルマウスでミュータンス連鎖球菌のPCRを脳や他組織でおこなったところ脳のみしかも損傷側でその菌のDNAを検出しました。そして血管壁損傷部位にその菌が局在しているとを明らかにしました(参考)。

    歯周病菌も元凶だと聞きます。狭心症や心筋梗塞の原因となり、ときに心臓で菌によって増えた血栓(図、左下)は脳に流れていき脳梗塞もおこすとかーー

    脳の健康のためには口の中の衛生も大変重要なことが分かりますね。

    ヒトは細菌との共生体といえます。なぜなら私たちの身体には100種類以上の菌種と自分の体を作っている細胞数よりはるかに多い100兆個もの菌がいるからです。

    親から貰った遺伝子のみならず将来はペットモドキ?の細菌遺伝子も個人情報の遺伝子となりそうです。

    口の中の菌は幼児期に親から感染して増えるようです。口の中にどんな菌がいるのかは簡単に調べられます。自分が脳卒中になりやすいかどうか分かれば注意ができますね。

    なにはともあれ細菌が血液に入らないように傷を作らないこと、そして血管の内壁に傷を作らないように、‘血液さらさら’を心がけた生活にすることが一番です。



    ナスは動脈硬化や高血圧を予防するそうです。

    あきなすびよめにくわせよ~~

    鉢植えですがとても美味しいナスです。

    赤とんぼが茄子紺の実と碧い空を行ったり来たりしています。

      

  • Posted by 丸山 悦子  at 22:50Comments(0)脳神経生化学

    2012年09月11日

    ハーブはハーブでも・・合(脱)法ハーブは、

    <Casa Blancaは‘自由’の香り~>
    カサブランカはポルトガル語で‘白い家’です。
    その名にふさわしく3枚の顎片も3枚の花びらも真っ白で、花の大きさも百合の中で最大です。


    カサブランカと言えば映画の「カサブランカ」のシーンが思い出されます。
    その舞台はモロッコのカサブランカという一大商業都市(図の左上)です。

    時は1941年、ナチスドイツはポーランドを奪い、フランスを制覇し遂にフランス配下の北アフリカのモロッコまで侵攻してきました。

    地下レジスタンスの夫とともに自由の国に脱出しようとモロッコに来た彼女ですが、追い詰められてもう時間はありません、残る手は一つーーー

    彼女は、自分から黙って去ったかつての恋人に頼むしかない、と悟ります。というのは、偶然にもカサブランカでバーテンダーをしている彼と再会し、何と彼は闇の世界に通じている人間であることを聞き知ったからでした。

    夜霧が煙る空港を、彼の機転によって夫妻は危機一髪で自由の国に飛び立つのです・・・・

    命を守るためにヒトは逃げる知恵を得ました。

    植物は外界の刺激に対抗して多種多様の分子を代謝産物として創出しました。

    <忍耐とレジスタンスの産物はーー>
    百合の香りは芳香族化合物の中のテルペン類であるリナロールによるそうです。

    芳香を特徴とする分子はヒトの脳にはリラクゼーションをもたらしアロマ剤として使われます。

    植物にとっては、良い香りによって虫を呼び寄せて受粉の効率を上げ種族維持というわけです。

    また生き残りを賭けて、害虫やウイルス、細菌感染から逃れようと、病害を修復しようと、いろいろな分子を進化の過程で獲得しました。

    中にはヒトに死をもたらす毒物も少なくありませんね。

    ケシのアヘンや大麻のマリファナの成分が植物にとってどんな役目があるのかは謎です。

    しかし私たちにとっては、これらに含まれる分子が中枢神経に激しく作用し耽溺をおこすので、向精神薬として医師の処方箋を必要とさせ、法で規制しています(図、右上)。

    これらは量と投与法によっては治療薬としても使われ得ます。しかしその強い薬物依存性は、特に発達段階にある若年者の濫用は、神経情報伝達が正しく制御できなくなってしまい人格が破綻するので厳しい規制が必要なのです(図、左下)。

    近年新たな大きな問題が出てきました。

    それは化学合成技術の向上によって膨大な数の類似構造体が合成可能となり、さらにネット販売のグローバル化によって、その薬理作用も未解析のままに容易く人々の手に届くようになってしまったことです。
    化学式が同じでも鏡像体では効果が何倍も強くなったりするのです(参考、図2)。

    天然成分が入っていないいわゆる脱法ハーブなるものがお香や芳香剤の名で広がっているのです。「Spice」「Aroma」「Dream」など多数です。どんな危険な分子が混入しているかは想像だにありません。

    ですから先日、厚労省が個々の分子でなく、とにかく精神に作用する分子を規制する法律を作る、としたのは快挙ですね。

    <脳の内在システムを壊す類似の合成分子>
    向精神薬の怖さは、一時の酩酊、多幸感が身体に耐性を作って離脱症状をもたらすことに尽きます。その部位はというと線条体の前下方の数mmの側坐核です。

    多幸感は線条体近くのドパミン系が活性化され、伝達物質であるドパミンが放出することによる、と考えられます。しかし快感中枢には前頭前野、扁桃体、海馬などからの入力があり、その効果には多くの要因が複雑に絡むため耽溺や異常行動、呼吸や心臓への害の表れ方は他の薬の既往歴など、個人差が激しく危険度は推し量れません。

    やはり、シアワセは薬に頼むものではないですね。

    <内在性分子と受容体の生化学>
    私たちの脳内では、オピオイド受容体(モルヒネ受容体)に結合して鎮痛作用や多幸感を起こす故に‘脳内麻薬’と言われるオピオイドペピチドや、神経情報伝達物質のドパミンに由来する分子が内在的に合成されています。

    オピオイド受容体にはδ、σ、κなど沢山見いだされつつあります。

    また、脳には内在性カンナビノイドシステムがあります。

    脳内にある内在性カンナビノイドはその受容体を通して脳の発達や神経細胞の生長を制御していることがわかりました。

    このカンナビノイドの受容体に、大麻の耽溺の主成分、テトラハイドロカンナビノール(THC)やその誘導体が結合するのです(図、右下)。

    合(脱)法ハーブに含まれるこのTHC誘導体や異性体は、親和性があるそれぞれの脳内の受容体に結合して細胞を異常にして、そして脳機能を破綻させるのです。

    カンナビノイド類の脳内分子機作は未だ解明が難しく、これまでカンナビノイド受容体CB1が中枢神経系に、CB2が抹消に存在すると考えられて来ました。

    ところが最近、脳でこのCB1とCB2の蛋白質は細胞膜上で結合して内在性カンナビノイドの受容体を形成していることが報告されました(参考)。

    新規の受容体が発見されると構造生物学やバイオインフォマテイックスによってその受容体への結合分子の候補が浮かぶことでしょう。
    そして新規脳内生理活性分子としての確立は遺伝子解析によるよりは化学合成や精製の生化学、そして細胞生物学が役立つに違いありません。

    こうした研究成果を生かして、精神病で苦しむひとりひとりに適切な新たな治療薬が開発されることを願って止みません。



      

  • Posted by 丸山 悦子  at 23:17Comments(2)脳神経生化学

    2012年08月15日

    モバイルDNAで遺伝子治療をする

    <ジャンク(がらくた)遺伝子はジャンクでなかった!>
    モバイルphoneよりずっと大切なのがモバイルDNAです~

    私たちの身体を作っているのは主に蛋白質です。その蛋白質をコードしないDNA配列は、いわゆるジャンク遺伝子といわれます。哺乳類ではゲノムの~97%も占めています。大腸菌では10%くらい。

    注目すべきはそのジャンク遺伝子が脳において‘動く遺伝子’として沢山複製されていたことです。

    どうやら私たちはジャンク遺伝子を使って進化の過程で環境に適応すべく高次機能を持つ脳を獲得したり、さらにまた個性発現のための多様な神経細胞を作るためにこの非コード化遺伝子を移動させたり増やしたりして利用してきた、ようなのです(参考)。

    双子が成育環境によって違ってくる理由も‘動く遺伝子’で説明されるかもしれません(図、左下)。

    なぜなら運動や勉強が‘動く遺伝子’の活動を刺激して、脳内ネットワークの構築が変わることがあり得るからです。

    この動くDNAはゲノムへの挿入の仕方によってトランスポゾンとレトロトランスポゾンに分けられます。

    トランスポゾンはいわゆるカット&ペーストをして他の場所に挿入されるのに対して、レトロトランスポゾンはコピー&ペースト型の複製をします(図、右上)。

    この挿入を見てウイルスみたい、と思った方もおられますね。そうです、RNA型ウイルスはレトロウイルスといって逆転写酵素を持っていてRNAからDNAにしてから宿主のゲノムDNAに入り込みます。

    もしかしてウイルスは動く遺伝子がゲノムからちょん切れて細胞外に出てきたの?

    私のゲノムはウイルスと共生しているの?

    はたまた私の脳はウイルスに乗っ取られているの?・・・・やっぱり・・

    ところで、この‘動く遺伝子’を染色法による顕微鏡観察によって、はるか半世紀以上も前に見つけた人がいます。マクリントック(1902-1992,米国)です。

    <マクリントックによるトランスポゾンの発見>
    とうもろこしの美味しい季節となりました。

    日本のコーンは淡黄色一色なので遺伝のことなど考える間もなくお腹の中です。しかし装飾用として見かけるインディアンコーン(図、左上)の斑入り模様には誰でも一度は「なぜだろう」と思ったに違いありません。
    これを見て、マクリントックは研究をはじめたのです。

    そして遂に、色素の遺伝子の発現を調節する調節遺伝子が動き回るから、図、左上のように種の色の多様性が出るのだ、と考え至ったのです。

    しかしその頃世界は、DNAからRNAそして蛋白質、というセントラルドグマ一色でしたからマクリントックが「遺伝子が動く」と主張しても誰も振り向こうとはしなかったのでした。

    この画期的な生物学的研究結果は時がはるか過ぎてから認められました。

    彼女が81歳のときでした。

    彼女はノーベル生理医学賞の受賞の報告を得て「あらまっ」と一言つぶやいていつもの様にトウモロコシ畑にスタスターー、という話は有名です。

    <動く遺伝子と疾患>
    ‘動く遺伝子’は脳の機能だけに目を向けていてはいけませんね。

    癌の発生や難病の原因は過度に偏った生活習慣やストレスによる、‘動く遺伝子’の制御逸脱による、と考えられるからです。

    生活習慣病や癌、精神疾患など多くの病気がひとそれぞれで多種多様に活動する‘動く遺伝子’に原因がある、となると治療が混迷する訳も納得です。

    早くトランスポゾンやレトロトランスポゾンの位置がコンピューター化されたマッピングによって個人の診断情報として使えると良いですね。
    まさに目指すべく個別化医療の為せる業となりましょうか。

    疾患と遺伝子変異については、既に原因として単一塩基多型(SNP)(本ブログ)という個人ごとの変異によってある種の癌や神経変性疾患が生じることが分かっていて解析が可能です。

    レトロトランスポゾンによる疾患も見つかり、その中に2.6kbのSVA型レトロトランスポゾンが挿入している福山型筋ジストロフィーがあります。

    この遺伝病は日本人特有で二万人に一人と発症率が高く、十代で死に至ります。
    常染色体劣性遺伝性神経疾患であり、異常遺伝子をヘテロに持つ発病しない保因者の方は八十八人に一人という高頻度とのことです。

    発症のメカニズムはレトロトランスポゾンが筋肉機能に大切な糖転移酵素の遺伝子に入り込んでしまい異常な糖タンパク質が出来てしまうことによります。

    ゲノムプロジェクトの成果として今やSNP解析も巨大な遺伝子の配列決定も夢のように迅速簡便となりました。
    今後は、疾患の原因遺伝子は何か、トランスポゾンの挿入サイトはどこなのか、発現や構造にどのような異常が生じたか、どういう関連蛋白質が影響されているのか、などのよりシステマティックな研究が切望されます。

    重篤な遺伝子異常疾患の治療には早急に、外部から新たな原因遺伝子を補充するか、正常に発現している細胞を移植しなければなりません。幹細胞を使った再生医療の技術が世界中で切磋琢磨されています。

    <遺伝子の導入にはトランスポゾンを含むヴェクターのデザインから>
    最初の遺伝子導入の試みはウイルスを用いるものでした、しかし毒性が強すぎました。

    細胞に余計なDNA配列が入ったことによる癌化のリスクを無くすべくトランスポゾンを使った技術開発が始まりました。
    動く遺伝子の仕組みを応用して、転移に必要なトランスポゼースとそのヘルパータンパク質を発現するベクターからなる共導入システムにすればウイルスやプラスミドだけをヴェクターとするより安定で効率が良いことがわかりました(図、右下)(参考)。

    既に哺乳類への適用としてSleeping Beauty, piggyBac、Tol2の非ウイルス性ヴェクターが 開発されています。
    これらは再生医療で重要な人工多能性幹細胞(iPS細胞)における分化決定因子の強制発現にも有用でした。
    と、こんなに進んだものの未だ、外来遺伝子を身体の標的場所に、また細胞のゲノムの適切な位置に挿入するのは至難なのです。

    さらにまた大きな問題が分かってきました。

    DNAの塩基配列だけの情報で遺伝子を動かすことは出来ない、すなわち動く遺伝子の活動を繰る要因が別にあったのです。
    それはまさに遺伝子では決められていない、DNAのメチル化やヒストンの修飾なのです。

    この現象はエピジェネティックといい、遺伝情報は変化しないが何らかの刺激によってDNAへの化学修飾(DNAのメチル化やヒストンの修飾など)が起きて、そのために特定蛋白質への読み取りの増減や動く遺伝子の活動の抑制度が左右されるのです。

    従って、治療や予防のために、後天的に起きる遺伝子の活性制御を解析するエピジェネティックス(本ブログ)の学問にブレークスルーが強く求められるのです。



    きゅうりのグリーンカーテンです。

    あっという間に30cmにもなり、

    美味しいきゅうりが食べられます。



      

  • Posted by 丸山 悦子  at 21:47Comments(1)長寿健康社会

    2012年07月21日

    ヒッグス粒子は確率で見えた!!

    <原始宇宙を作っていたヒッグス>
    モノは目で見るか、メガネか顕微鏡か、いえいえ私は心眼ょ~

    先日、欧州の世界最大規模の素粒子物理学研究機関であるCERNからの新規素粒子の発見、というヒッグス粒子のニュースに世界中が沸きました。

    遂に理論が現実となったのです。

    目には見えないこの素粒子の検出は今世紀のビッグスリーになることでしょう。

    質量を与えてモノを作ったという暗黒原始宇宙の素粒子、ヒッグスの検出はヒッグス博士が理論を提唱して以来、半世紀近く待ち望まれて来たのです。

    <質量の起源>
    ビッグバンで宇宙が出来て一秒もしないうちに宇宙はヒッグス場で満たされたそうです。
    光を反射することがない素粒子だけなので暗黒の世界です。

    やがて、質量がゼロであった素粒子たちは質量を得ることによって原子や分子などモノの構成要素となっていきます(図、右上)。光子は質量がないままですがーー

    それにしてもバ~ン?と宇宙が始まる前の世界はどのようにシミュレートされるのでしょうか。
    どうぞ37億年より前の世界をそっと教えて下さい

    ヒッグス粒子は、ジュネーブの地下に建設された円周27 kmの超加速装置内で、陽子の衝突によって出てくるグルーオンから生じるようです。

    そしてヒッグスの破壊物のシグナルを検出して解析するのです(図、左上)。

    昨年は検出のprobability(P値)が2σだったのが遂に5σがクリアーされたのです(参考、04.07.2012: Higgs within reach)。

    このCERNのニュースの3シグマや5シグマの理解は本ブログでの標準偏差σやσと信頼区間の確率の関係図が役に立ちそうです。

    <シグナルかノイズかそれが問題だ---検出限界>
    研究では高い精度を得るために、実サンプルにおける繰り返し実験を行って標準偏差や分散を解析します。そして実験結果が有意であるかを確率的に判断します。

    素粒子発見のクライテリアであった5シグマについてエクセルの関数を使って理解してみましょう。

    値のばらつきの程度を表すグラフが確率分布です。確率分布である正規分布はデータから得た平均値μと標準偏差σで決まり、エクセルのNORMDIST関数値と散布図を使って面積が確率を示すグラフが書けました(本ブログ)。
    この確率密度曲線の関数式(本ブログ)は図の中央左の式によって正規分布が標準正規分布N(0,1^2)に変換され、標準確率密度曲線とすることが出来ます。

    このようにuに変換するとどんなに便利か標準化をして表とグラフを作ってみましょう。

    まずエクセルを開けて図の右下表のように左端の列に-6σから6σ、すなわち標準化した場合はσが1なので-6から6を入れます。
    標準正規分布の関数式
    f(x) = (1/(sqrt(2*pi))*exp(-x^2/2)) (図の中央)をマイナス無限大 からxの区間で積分することで面積値が得られ、それはxがマイナス無限大からxの間の値になる確率であることを意味します。

    その値は標準累積分布関数、エクセルNORM.S.DIST(尾部はTRUE)によって得られます(表、二番目の列)。
    なお表一列目は標準正規分布の確率密度の値です(NORM.S.DIST、尾部はFALSE)。

    出た数値(xとf(x)の値)をそれぞれ囲んで散布図のグラフをクリックすると自動でxとyの関係のグラフ、標準累積分布や標準正規分布が描けます(図)。

    累積分布関数値(グラフの赤線)は標準正規分布(グラフの青線)の積分値ですからxが2σならその値はグラフの灰色の面積に等しい、となりますね。

    信頼区間2シグマは1から桃色の2倍の面積を引いた値です(本ブログ)。
    ですから1-2*(1-NORM.S.DIST)の値によって各シグマの値が得られることになりますね(図の表)。

    数式バーのf(x)の横にイコール(=)からこの計算式を書いておくだけでエクセルのオートフィル機能で連続データが自動的に得られます。最初の列のセルをクリックしておけば後は下方にドラッグするだけなのです。

    計算式を書きさえすれば瞬時に計算してくれて表が出来る、エクセルのエクセラントたるところです。

    昨年は2σであった実験結果が今回、世界中の研究者の総力によって5σとなった、このことはすなわち0.954499736から0.99999427(表)まで精度がアップしたことになります。
    不確かさが百万分の一以下の精度が良い実験だった、ということです。

    この表と図で分かるように5シグマの時には真の値から外れる確率は小さくて塗り絵は出来ませんね。

    <経営手法におけるシックスシグマ>
    シックスシグマは1980年代の日本製造業界へ導入された品質管理のコンセプトです。

    6σは上の表に示されているようにP: 0.000000002、十億個に二個の不良品しか許されないことになります。
    不良率を下げて製品の高品質化と顧客満足度を上げる、という精神を掲げたおかげで現実の値は別としても「モノ作り日本」の達成度に素晴らしいものがありました。

    ところがどうした訳か近年の日本製品の品質は凋落傾向です。

    士気の欠落や賃金の低下そして熟練した正規社員が減少したせいなのでしょうか。

    どうやら現代の企業戦略としては、ひとつの製品に完璧性を求め過ぎる‘シックスシグマ’は、グローバル化が進み迅速性が第一の市場を考えると議論の余地がある、とのことです。

    素粒子の世界とは違いますね・・・



      

  • Posted by 丸山 悦子  at 20:07Comments(2)エクセルはエクセラント

    2012年06月30日

    エクセル、FTEST,FDIST,FINVのFってナ~ニ!

    <要因が複数ある時の統計解析はーー>
    FTESTのFはF検定のFジャン

    というだけではないのです。

    Fは統計学の父、フィッシャー(1890-1962,英)のFです。

    数学と生物学を学んだフィシャーは、ロンドン郊外の農事試験場に就職しました。

    広大な敷地にある質や環境が異なる畑では同じ植物でも生育が異なり、肥料の効果もはっきり攫めません。要因が沢山あって答えが出せないのです。

    さてt-検定を使えば、2群の平均値に差があるといえるか、という検定はできます(本ブログ)。
    そこでフィシャーはそれを広げて複数のグループ間の要因に違いがあるかどうか調べられないか、と探求しました。

    そして群間分散/郡内分散を調べて群間に差があることが有意かどうか、がわかる検定法を発見しました。分散分析(ANOVA)です。

    データが左上の表のような場合は、エクセルの分析ツールの「二元配置のくり返しのない分散分析」を選びます。
    次にデータを囲んで分散分析表を得ます。
    有意水準を5%とするならその表のP値から、各畑においては有意に、状態の違いがある、と言えることがわかるのです。

    すなわち分散分析は分散の比の検定を行って要因によっておこる変動が誤差内かどうかを調べているのです。


    復習となりますがt-検定には3種類あってどれを使うかは、まずF検定を行うことによって、与えられた二群のデータが等分散か不等分散かを決めました。それから分析ツールの中の適切なt-検定を選択して解析しました。

    正規分布では確率密度曲線を描くのにNORMDISTの関数値を使いました(本ブログ)。また、t-検定ではTTESTの関数式よりP値を得ました。

    さてF検定でもエクセルに関数が揃っています。
    FTEST(両側確率P)やFDIST(片側確率P)、FINVという関数を使ってF分布上のP値やF値が求められます。

    このF分布という分散比の確率分布を用いたF検定と分散分析の発見こそフィッシャーの偉業とされているものです。

    <F分布の確率密度曲線>
    ところでF分布という確率分布は正規分布(本ブログ)やt-分布(本ブログ)の確率分布と違ってそのグラフは自由度によって大きく変わり左右対称でないのが特徴です。

    その確率密度を出す関数式がエクセルではアドインされていません。
    そこで私はNTFDISTという関数をエクセルに組み込みました。

    ここでは自由度が3と4、3と10の値を使ってNTFDIST関数による2種類の確率密度の値を出しました。そして散布図をクリックしてF分布のグラフを作成しました(図の右上)。

    <品質管理と分散分析>
    分散分析は育種や研究開発などにおける実験結果の分析のみではありません。
    「世界一の品質を持つ日本!」と言われるように日本製品における品質管理では統計学が力を発揮しています。

    統計的品質管理に卓越するには、数々の要因の中から品質に影響をおよぼす異常原因を統計学的に見つけ出す、そしてきちんと対処する、これに尽きますね。

    このように分散分析は統計的現象の原因究明やグループ間の要因解析ができるので複数の患者への薬の効果を調べる場合にもうってつけです。

    要因がひとつである一元配置の分散分析の例としては、結核菌の再来を抑えるべくしてなされた下記のようなスクリーニングの研究報告があります。

    <多剤耐性結核菌を撲滅するには>
    先日も結核菌集団罹患のニュースがありました。

    日本は先進国の中でとても結核罹患率が高いのです。

    なぜこの現代に結核菌に脅かされるのでしょう。

    戦後、結核は日本の死亡原因の第一位でしたが化学薬品のお陰で非常に減りました。

    ところが中途半端な化学療法によって耐性結核菌が生じてしまったのです。対処に困難を極めています。

    南アフリカでは結核やHIVに効くとされる植物由来の民間薬が沢山あるそうです。しかしその科学的な検証はなされていません。

    論文では21種類のうち4つの植物で結核菌と薬剤耐性菌の増殖を抑えることが解析されました(参考)。

    成分の抽出とさらなるバイオアッセイを進めて薬剤耐性菌に効く天然の成分が分かると良いですね。

    なにはともあれ結核菌に冒されても薬効が得られて死なずに済むように、薬の併用や免疫力の低下を個人のレベルで防いでおくことが大切です。

    日々の健康管理に勝るものは無し、です~




      

  • Posted by 丸山 悦子  at 23:02Comments(0)エクセルはエクセラント

    2012年06月10日

    健康の分子マーカー探索に新兵器!!

    <大海の砂粒を探す術はーー>
    健康の分子指標は大海の砂粒の如し、です(図、左上)。
    しかし計測技術を高め個人の測定値を得て、そのデータを管理・情報化していけばきっと健康長寿がもたらされます・・・・


    ドイツのミュンヘン大学において超微量で瞬時に生体成分の結合反応速度論的解析が出来る器械が開発されました。
    温度泳動的生体分子間相互作用解析装置(MST)です。

    これまで生体成分の検出法としてはELISA法やSPR法が汎用されています。

    ELISA法では検出したい分子に結合する分子を固相化しておき目的分子を結合させてからさらに標識をつけた別の結合分子と反応させます。標識の酵素活性や光学的性質を用いて測定値を得ます(図の右)。しかしそのためには結合後にB/F分離という未結合の成分を良く洗う操作が必要です。

    SPRセンサーもチップ上で生体成分と親和性を持つ分子を固相結合させます。この場合は標識分子を使う必要がなく、複合体生成で増大した質量によって生じるプラズモンの変化を電光的に検出します(図の右)。数千万円、と高価です。

    MST法による検出は原理が全く異なります(図の左下)。
    多成分混合系において局所的にわずかの温度を上げることによってできる温度依存的な濃度勾配による蛍光標識分子の蛍光強度の変化から分子動力学計算をします。

    その開発者は社長でもあるミュンヘン大学のDuhr博士です。
    分子の温度泳動理論に基づいて核酸の構造安定性の解析や生体成分の検出の応用研究に邁進されています。

    MST法ではより生体内に近い状態とすべく、上の二つの装置とは異なりキャピラリーの溶液中で結合反応を行います。
    キャピラリー(径、0.1 mm)の反応溶液量は~250 nlで米粒の百分の一の量もいらないようです。そして測定時間といえば一分以内という迅速さです。
    本体はパソコンサイズです。

    さらに素晴らしいのがソフトウエアです。16本のキャピラリーに同時にサンプリングして一気にキネティクスの値が得られるのです。
    日本にはまだ一台、1500万円とのことです。

    <なぜバイオマーカーの発見が難しいのか>
    どんなセンシング技術がバイオマーカーの発見をもたらすのでしょうか。

    ゲノム塩基配列は生物を構成する蛋白質やRNAの設計図です。
    ところが遺伝子から読み取られる各個人の蛋白質は遺伝子の突然変異やSNP(本ブログ )のためにまた後天的なDNAの修飾(本ブログ )によってその発現のレベルや分子構造が多様に変わり得ます。
    またアルツハイマー病やうつ病でおきるという蛋白質のプロセシング異常では蛋白質の大きさが違ってきます。
    これらの変化は当然、相互作用する分子の相手や結合の親和性などが変わり代謝異常や疾患の原因となります。
    例えば酸化ストレスによる酵素の修飾による構造的変化とそれがもたらす結合パートナーの選択の変化は細胞の生死に関わるシグナル伝達を大きく変貌することが生化学的に示されました(本ブログ)。
    確かにこのような生化学的な解析技術はナノの世界(本ブログ)を超えつつありますがその工程の複雑さのために生化学者でも並みの技と時間ではなし得ません。
    そこで期待するのが準備や操作がシンプルでかつ分子間の解離定数を数分で検出してくれるこのMST法なのです。

    <キネティクスで疾患の解明>
    自分の血液中に自己抗体が出来てしまう難病は重症筋無力症や全身性エリテマトーデスなど多く知られています。

    Lippok らは自己抗体疾患であり心臓の病気である拡張型心筋症についてMST法を用いました。

    拡張型心筋症ではβ1アドレナージック受容体に対する自己抗体が血清中に増えてしまい、それが細胞外の受容体部分に結合してしまうので心筋細胞内へのシグナル伝達情報が過多となり心臓が障害されてしまいます。

    そこで彼らはβ1アドレナージック受容体の細胞外アミノ酸配列部(COR1)を合成して標識分子として、まず健常なヒト血清中の自己抗体について解析しました。(参考)。

    ヒト血液中には抗体分子である種々のイムノグロブリンが高濃度に存在しています。ですからクルードなサンプルでダイレクトに解析できたことは極めて快挙です。創薬の開発にも貢献するでしょう。

    この研究結果は自己抗体が約100 nMと検出されたので、血中IgGが10 mg/mlとすると1000分の1くらい、この自己抗体があることになりますね。患者サンプルとの比較の解析結果が待たれます。

    私たちが測りたい分子(図、左上)はストレスや環境の変化に応答しやすく、その測定値は個人の状況の違いによっても変動が大きいでしょう。

    従って、どんなサンプルにも対応出来、広いレンジ幅で測定出来る、そしてキネティクスの値が即座に得られる、というMSTの測定法はホープとなりそうです。






      

  • Posted by 丸山 悦子  at 19:55Comments(0)脳神経生化学

    2012年05月20日

    紫外線がコワ~イ季節です。その理由は

    オゾン層が破壊されて有害紫外線が増大
    シミ、シワ、タルミなど肌が一番ダメージを受けて老化が進むのがこの季節です。

    特に近年は、自然界にはなかった化学物質のフロン(クロロフルオロカーボン)などによってオゾン(O3)層が破壊されたため(図、左上)、オゾン層による有害紫外線の保護効果が減少してしまいました。
    そこで、この有害線暴露による白内障や子供の皮膚がんの増大が心配されています。

    紫外線と呼ばれているのは、太陽からの種々の光線のうち可視光線より短い、10-400 nmの波長の電磁波(本ブログ)をいいます。

    電磁波のエネルギーは波長が短いほど大きくなります。太陽から大気圏を通過して地上に達して有害となるのは285-400 nmのものです(図、右上)。

    エネルギーは強度((図、右)に時間が掛け合わされますので、障害は日照時間や晴天日が多くなる初夏に大きくなる訳です。

    ヒトに有害な紫外線であるUV-BとUV-A(図、左)は、むき出しである目や皮膚においてスーパーオキサイドアニオン(・O2-)やハイドロキシラジカル(・OH)などのフリーラジカルを含む活性酸素種を発生させ細胞膜やDNA、コラーゲンなどを損傷します(図、左下)。

    すなわち、酸化障害が老化を進めるということになりますね。

    フリーラジカルは分子の最外殻軌道に不対電子を持つ分子のことです。他から電子を奪う力が強く、連鎖的な電子の略奪反応が細胞や組織で進んでしまいます。

    フリーラジカルの消去法
    細胞を障害する体内のフリーラジカルを無害化するために私たちは食品として抗酸化物質を日々摂取します。野菜や果物に豊富なアスコルビン酸(ビタミンC)(本ブログ)、α-トコフェノール(ビタミンE), CoQ10(コエンザイムQ10)(本ブログ)、フラボノイド、ポリフェノールなどですね。

    これらの抗酸化物質は、植物が進化の過程において自らの代謝過程で生じた活性酸素に耐えるために合成が可能になった分子です。

    植物も私たちも酸素を使って代謝のエネルギーを得るかぎり、死が不可避なように、体内で生じた副産物の活性酸素からも逃れられないのです。

    でも動物は、害のある活性酸素を除くためにもっと巧みな仕組みを獲得しました。上記の抗酸化分子では一個が一個をやっつけておしまいです。私たちは酵素というタンパク質による酵素反応のサイクルによる仕組みを獲得しました。

    すなわち、酵素を自分の遺伝子で合成して、その酵素反応によって効率よく即座に有害な活性酸素種を消去するのです。

    ・O2-を酸化してH2O2にするのがスーパーオキサイドディスムテース(SOD)という酵素です。私たちの細胞の内外には幾種類かのSODが存在し、即座に・O2-を捕捉します。

    ところが放射能物質から出る電磁波である放射線による被曝では酵素を以ってしても消去が追いつかず発ガンのリスクが一挙に高まってしまいます。

    生命力とは、まさにラジカルや活性酸素を消去する力、そして細胞の損傷を修復する力、となりましょうか。そしてあと一つ、免疫細胞が積極的に武器として・O2-を発生させて細菌を殺す防御力、ですね。

    最近、抗酸化酵素であるSOD1のアミノ酸が酸化されると筋萎縮性側索硬化症(ALS)(本ブログ)という神経変性疾患を起こす、という新たな視点の論文が報告されました。

    ALSの発症メカニズム: SOD1の構造変化がもたらす細胞の生と死・・・・>。
    ALSは運動神経が特異的に死んでいき筋肉が動かなくなる病気です(図の右下)。動作だけでなくついには呼吸も出来なくなります。現在は治療法がありません。

    ALSを発症した宇宙物理学者であるホーキング博士が車椅子でなお研究発表を続けていた映像が思い出されます

    この疾患はほとんどが突発性であり(sALS)、遺伝性のALS(fALS)は10%以下です。

    既にfALSの一部の患者でSOD1のアミノ酸変異が生じていることが見つかっていました。がその他の場合ではどういう分子が毒性を生じて運動神経を死なせるのか想像だにありませんでした。

    Guareschiらは正常人,sALS, SOD1が変異しているfALSの患者から採取したリンパ母細胞を培養してSOD1について調べました(参考)。

    sALS患者の細胞を酸化処理したところfALSの特徴と同じくSOD1の細胞内凝集が見いだされました。

    さて、細胞のミトコンドリアには細胞の生死を決定するBcl-2という分子があります。ストレスの状況に応じて幾つかのシグナル分子との結合と解離を介して細胞の死を抑制する重要な分子です。

    彼らは、fALSでこのBcl-2と変異SOD1が結合しているのと同じように、酸化修飾を施したsALSのSOD1でもBcl-2が結合していることを見つけました。

    すなわちアミノ酸突然変異というSOD1の構造変化がBcl-2との結合を可能としたように、SOD1の酸化による構造変化も同じ分子相互作用の異常を起こして、発症に至らしめたことが考えられます。特に発症の開始時期には酸化処理によらずとも既に酸化修飾がされていてまた凝集も起きていました。
    従って、発症の引き金の仕組みとしてSOD1の酸化が提示されるのです。

    彼らはSOD1がBcl-2と結合するとBcl-2タンパク質のBH3領域が構造的に表面に露出し細胞死のシグナルとなる可能性を構造特異的に認識する抗体を用いた免疫沈降法によって示しました。

    今後、このように酵素の修飾とそれがもたらすパートナーの選択についての詳細は、先端学問であるバイオインフォマティックスの領域でも解明されて欲しいものです。

    データでは面白いことに、正常人由来の細胞においては、sALS由来細胞での結果とは異なって、過酸化の状況でもBcl-2とSOD1は結合していない、ということが分かります。
    いったい正常人由来細胞では過酸化されてもSOD1がミトコンドリア膜に局在するBcl-2と結合しなかった状況とは何なのでしょうか。

    酸化処理によるミトコンドリアの耐久力に関する分子機構の解明、そしてバイオマーカー測定法の確立には特異抗体を用いた微量神経生化学のテクノロジーがまだまだ期待されそうです。




    “ドイツあやめ”とも呼ばれ、フランスの国花です。

    花言葉は「あなたをずっと大切にします」です~
      

  • Posted by 丸山 悦子  at 22:17Comments(0)脳神経生化学

    2012年04月29日

    仙台しだれ桜、風情いろいろ



    どうぞクリックしてご覧ください。
    可憐で優しくも凛として、鎮魂のうたが聞こえそうです。







    ドイツ国営放送で製作された記録映画「福島の嘘」のURLをお友達から頂きました。
    「福島の嘘」
      

  • Posted by 丸山 悦子  at 20:08Comments(2)長寿健康社会

    2012年04月09日

    ドイツでは幼い頃から確率・統計学

    <学徒の魂、百まで>
    今年の遅れ馳せながらの桜よりピカピカのフレッシュマンに目が注がれます。

    どうぞ中学や高校とは指導法がどんなに違うか、お楽しみアレ~ ?


    グローバル化の速度はあらゆる分野で著しいものがあります。とはいうものの私達の脳は生まれ育った日本という環境や文化、いえ、親の背、教師の背に負う所が多分です。

    ですからそう簡単には自分作りや先を読む能力は得られませんね。大波を超えるための人生に必要な技は時を越えて自分で磨くしかありません。

    大波といえば危なげなユーロ圏の経済ニュースがいつもどこかに登場です。今にも私たちを飲み込みそうな大波が続いています。

    ユーロ圏では新たな経済世界を目指すとともに経済のツールである通貨もカラフルなユーロ紙幣に替わりました。

    かつてのドイツのマルク紙幣は確率分布曲線(本ブログ)とその発見者のガウス(1777-1855、独逸)の顔が載っている荘重なものでした。

    ものごころが付いた頃からお札を使うたびにガウスと向き合うわけです。

    確率的な思考に満ちた人生であることでしょうね。

    <確率密度曲線と区間推定>
    ガウスの時代の数学者達は、現実にはデータが取りきれないような母集団の特性を把握するための数学的解析法を求めて統計学を発展させました。

    さて人々の身長の分布や工場製品のばらつきについて分布を調べると標本サイズを上げるほどに、得られた標本値の分布は平均値の付近に集積します。そして左右対称の釣鐘型となる正規分布という分布型に近づきます。

    ガウスは母集団の特性を知るためにはほぼ30以上の抽出サンプルがあると平均値(μ)と標準偏差(σ)を用いた関数式によってその母集団の分布曲線に近似できることを示しました。
    その関数式は確率密度関数式(本ブログ)と言い、積分すると、すなわちx軸(確率変数)と曲線で囲まれた面積が1となります。

    さてこの発見はどのように世の中に役立つのでしょう。

    図の左上が示すことはデータが±1σの範囲に入る確率は約68.3%、±2σでは95.4%、の確率であることを意味します。
    平均値(μ)や標準偏差(σ)がどんな値であっても±1σや±2σ、±3σの範囲に入る確率は常に一定に、0.683、0.954、0.997となるのです。ですから平均値と標準偏差の値と目的のデータを比較すれば自ずと全体の中での特性が分かります。

    しかしサンプルがヒトの場合や販売品は沢山の標本数を取って調べることが出来ません。
    そこではt-分布を用いたt検定法が使われます。

    -分布とStudent‘s t-test>
    化学と数学を学んだゴセット(1876-1937英国)はビール会社ギネスに就職しました。ギネスブックで有名ですね。

    彼は醸造所で味が一定の良いビールを作るために日夜、タンクの中から酵母菌の入った麦汁を少し取り出しその菌の数を数えてタンクのビールの出来具合を推定していました(図の左下)。

    製品管理のためのこの仕事において、ガウスの言うように何回も測定頻度を重ねれば一定の値により近づき、タンクの酵母菌濃度とブレが少なくすむ、ということは分かっていました、がゴセットはもっと少ない抽出実験でより正しく調べることが出来ないものか、と考えたのです。

    そこで発見したのがt-分布という確率分布です。これは標本数を増やすとガウスの正規分布に近づきます(図右)。
    -分布は少ない標本のみで母平均を推定することが出来るのですから凄い発見でした。

    また-分布を使うと2つの母集団からの2つの標本平均の差がどういう確率で有意となるか、という検定が出来ます。いわゆるStudentの-テストと呼ばれる検定法です。

    私たちが実験結果の報告をする時はデータをStudent の-testを用いて解析した、と記し(参考)危険率が0.001(参考論文の場合)で両群のデータの平均に差があるといえる、のように確率Pがどの位小さかったかを記します。これによって読者はどれくらい危なっかしい、あるいは信憑性が高い研究結果なのかが判断出来るわけです。

    Student’s t-testではunpaired -test としても記します。この時は対応がない独立な二つのデータにおいて平均に違いがあるかどうかを知るための検定です。

    ところで ‘Student’ はゴセットのペンネームです。"学生”としたのが謙虚でいいですね~"脳研究者”などと書かない・・・

    自分が出したデータを説得したい側としてはエクセル分析ツールでまずF検定を行います。そこでは比較したい両データの分散のばらつき具合を検定します。ある決められた確率で分散が等しいと判定されると、その次に検定をクリックしてその中の分散が等しいと仮定した場合を、あるいは等しくない時は、等しくないと仮定した場合を選び検定結果の表と危険率P値を得ます。

    なおpaired t-test(対応がある)、をエクセルで選ぶ場合は、例えば薬の投与効果を検定したい場合など、即ちbefore and afterで効果の有意差検定をしたい時です。投与前後のデータをセルに挿入後、危険率を得ます(参考、論文中図1の説明文)。

    <現代社会に必要な統計学>
    母集団の分布型がおよそ分かっている多くの生物や物理の現象や物質の特性は正規分布やt-分布の関数式によって確率論的に解析が出来ます。

    ところが企業の戦略としては経済の動きや人々の購買意欲に関する全体像の解析がとても重要です。また資源の乏しい日本は他国からの物資の仕入れに関する戦略が生き残りに関わります、またIT情報の篩い操作など、これらは確率分布が決められないものですが必須のニーズとなっています。

    でもこれらは次に起こることによって確率が変わりますので関数は得られないのです。

    では現実社会の諸問題に統計学は太刀打ち出来ないのでしょうか。

    要因が多すぎるから誰かの勘に頼るしかないのでしょうか?

    現在は医療診断システムや、インターネットで受信したものがスパムメールである確率の計算などは社会数学ともいえるベイズの理論モデルを使って、不完全情報下での解析として進められています。

    何はともあれ、何を調べたいのか、いかなる質と量のデータを得ればよいのか、そして分布の様式がどうなのかなど、判断が得られるような適切な分析法を進めていくことが重要です。

        
                                      
                               
                  
       「庭の桜はまだちらほらだね。

       次のブログでは桜の花がアップされるかな~」
      

  • Posted by 丸山 悦子  at 22:47Comments(0)エクセルはエクセラント

    2012年03月18日

    有性生殖は超えられるのか

    <春遠からじ・・・>
    今年は100年来の厳冬とのこと、鳥たちはいつになく餌探しに必死です。
    赤い実は、千両も万両も黒鉄モチももう食べ尽くされました。

    見慣れぬキジバトのカップル(写真)も枯れた芝生に何があるのか忙しくつっついています。

    この黒鉄もちの木(写真)は小さいときから秋になると実を沢山つけます。

    黒鉄もちは雌雄異株とのことです。さらに驚くことに単為結実性といって受粉しなくとも実がなるのだそうです。
    メスだけの世界なのですね~

    受粉無し、ということですから種がない、鳥が食べて運んでくれても遺伝的多様性が得られません!!

    植物ではこの単為結実性が強いものが茄子やきゅうり、みかんや種無し葡萄、柿、と野菜や果物に多いですね。生殖兼備?の多才が羨ましい・・・・

    この単為結実性は食べるときに種を出さないで済みますので人間には好都合のことです。

    人間が毎年同じ味の美味しいミカンやオレンジを食べ続けて来られたその仕組みは、接ぎ木とその寿命の長さ、そしてどうやら、受粉して種が出来た場合でも、その胚の中に母親と全く同じ遺伝子を持った胚も出来てそれが育っていくことによるようです。元親と全く同じ遺伝子の子供なので同じくまた美味しいミカンが付くのですね。

    動物の胚からも雌が単独で子供を作れるでしょうか?

    マリアさまだけには進化(本ブログ)が微笑んだのでしょうか!!

    <哺乳類は単為生殖が出来るか>
    有性生殖をする私たちは体細胞の核内には母由来と父由来の2対の染色体(22対と性染色体XXかXY)を持ちます。
    生きていく上で必要な分子を得るために、決まったaかA(図、左上)の遺伝子からタンパク質を合成していくのです。
    ひとつの細胞では遺伝子が分裂するごとに生涯同じ親由来遺伝子が発現するように胚形成の初期にマークされるのです。

    ところが染色体のある場所では(図の×と○、◎)、母由来で決まって発現する遺伝子(○)が、または父由来でしか発現しない遺伝子(◎)があり、前もって決まっていて世代で変わりません。まるで刷り込まれているようなのでこの仕組みをゲノムインプリングといいます。

    インプリングされている遺伝子は現在100個以上わかってきました。それらの遺伝子は受精卵の発達に重要な分子を合成する情報をもっているので父由来もしくは母由来だけということになると発生が出来なくなるのです。
    まさに有性生殖の妙味です。

    ではどのようにしてDNAは刷り込み、という特定の機能を持つのでしょうか。
    それは、DNAはアデニン(A),チミン(T)、シトシン(C)、グアニン(G)という塩基の連なり具合によって遺伝情報を表すことが出来るのですが、刷り込み機構ではシトシンをメチル化という化学修飾をすることによって対の遺伝子とは違う読み取りをおこすのです(図の右上)。

    DNAだけでなくDNAが巻きついているヒストン蛋白質の修飾やRNAもインプリンテイング機構に関与しているかもしれません。

    哺乳類のみが持つインプリンテイング機構の詳細はエピジェネティクスという発生学の新規領域で解明が期待されています。

    ではいったい、どの遺伝子修飾がどう必須なのかまったく未知の段階なのに世界をアッと言わせた羊の体細胞クローンであるドリーちゃんはどうやって生まれたのでしょうか。

    <体細胞クローンペット産業の失敗>
    体細胞の遺伝子は受精卵から卵割していきそれぞれの組織へと分化するために各卵割細胞の遺伝子が独特に修飾されていきます。そこでドリー誕生では体細胞を初期化という操作をして修飾をはずして分化する前のパターンに近付けたのでした(図の右下)。当然ながらインプリンテイング領域の修飾は常に変わりません(図の左下)。

    元の動物(ドリーの母)と全く同じ遺伝子を持って生まれたドリーの出生は、偶然を越えた快挙とも思えるほどに成功率が低い再現性の難しい実験のようです。彼らの初期化の方法では、多数の遺伝子のメチル化や脱メチル化、シス、トランスに働くであろう因子などが必要と思われるそのメカニズムのコントロールは至難の業と思われるからです。

    私は二匹をまじと見つめて顔を比較してしまうのでした、どのくらい双子なの?

    と申しますのはその後に活発化した体細胞クローンペット産業で猫や犬が思ったようには元の動物と同じにならなかったからです。毛の色や模様そして性格や記憶力などはストレスや環境などの後天的な影響で変わるからです。

    違う環境で育った一卵性双生児は、遺伝子が同じでクローンといえどもかなり異なっているということは細胞の核内分子の修飾具合が後天的な環境によって変り、遺伝子の発現様式が異なるからなのですね。ちなみに修飾が異常に変わってしまったのが細胞のガン化です。

    <リプログラミングの障害>
    父方と母方からの遺伝子によってプログラムされて決められたように生きているのではない私、という生物は、ではいつリプログラミングされ、また何がクリテイカルなのでしょうか。

    DNAやヒストンの修飾に異状が生じ遺伝子の発現制御が乱れて発達障害となるインプリンテイング病がいくつか分かってきました(参考)。

    遺伝子修飾によるリプログラミングで外界にとりわけセンシテイヴな時期は配偶子形成と受精卵着床前の卵割期とのことです(図、左下)。

    各種の修飾酵素がきちんと働くためには細胞の状態、環境が重要となります。女性の卵は母親のお腹の中での胎児期に既に分化していきますから生まれる子にとっては祖母の身体状況が重要ということになりましょうか。また、悲しいことに受精が成功して着床する時期は女性が予知したり認識できたりすることはほとんどありません。ということは日頃の栄養状態や生活習慣が大切ということになりますね。薬、タバコ、お酒、放射線、ダイエット、睡眠不足、などでしょうか。。。。

    メデイアでは医学の進歩?とばかりに著名人の生殖補助医療(対外受精や顕微授精)のニュースを報じます。その医療ではもっとも重要な胚細胞分割の初期にシャーレ内でいろいろな薬物を入れて人間が実験操作をするために修飾の機構を大きく乱して疾患を導くと報告されています(参考)。  

  • Posted by 丸山 悦子  at 18:24Comments(0)長寿健康社会

    2012年02月25日

    ナノテクノロジーはピコテクとなるか

    <‘ナノ’は生活必需品>
    1ナノメートル(nm)は1メートルの10^(-9) 倍で毛髪(0.1 mm)の10万分の一という長さです。電子顕微鏡の世界です。

    ナノの言葉は抗菌グッズから化粧品に至るまですっかり定着しました。

    化粧品の何がナノかというと、ナノサイズの酸化金属を加えることで成分を薄く広く皮膚に塗れたり紫外線散乱効果や透明感が得られるようになったそうです。

    毛穴も綺麗にする(殺菌?)という‘メイク落とし’にはナノサイズの銀が使われているとのことです。

    実はナノテクノロジーは、炭素原子が60個からなる化合物でありほぼ1 nmの大きさのフラーレンや径が1 nmのカーボンナノチューブ(図、中央)の発見がなされて一気に進みました。

    その理由はカーボンナノチューブが伝導性が極めて優れている上に、そのしなやかさと強さがずば抜けているので半導体や電池など、あらゆるデヴァイスの素材や微小化に役立つからです。

    さらにそれら炭素化合物の表面の自由電子は他分子との結合において今までに無い特徴を表すので、修飾分子によっては生物機能も代替出来るナノロボットが誕生しそうです。

    細胞はナノの1000倍の単位であるマイクロの大きさです(図)。細胞内の機能部品を全てカーボンナノチューブに変えると生物ナノマシンです(参考)。

    大腸菌(~5 μm)がしっぽ(鞭毛)を振って泳いでいます、と思いきや現れたのは人工大腸菌。カーボンナノチューブの鞭毛がぷりぷり、楽しいビデオです。

    これを見て昔日の映画「ミクロの決死圏」を思い出しました。ウエットスーツのカッコいい科学者達がヒトの血管の中を泳ぎます。自分たちの何倍もある赤血球の濁流?に飲み込まれそうになったり、免疫細胞の攻撃から必死に逃げたり、とサスペンスでした。

    <カーボンナノチューブのさらなる威力>
    一昨日のニュースで日本の建設会社による2050年計画を知りました。

    電子顕微鏡の世界から一気に宇宙エレベーターです。

    カーボンナノチューブは何よりも強いので地上600万 km迄行くワイアーとして使える、というのです。
    現在ある宇宙ステーション「きぼう」が地上400 kmですから夢のようです。ロケットを使わない宇宙旅行が出来るわけです。

    でも汚れた地球を見捨てて我先に、と殺到する「蜘蛛の糸」には絶対にしたくありませんね。

    目下は、医療ではカーボンナノチューブは心臓ペースメーカーのための体内微小電池や脳波電極など、既存装置の欠点を大きく解消すべく各種センサの開発に寄与しています。

    がんのピンポイント治療に向けては体内の患部へ選択的に薬剤を送るドラッグデリバリーシステムにおいて、細胞よりはるかに小さい運搬体の材料としての研究がなされています。

    そして上記の人工大腸菌のごとくヒトが遠隔操作できる体内乗り物が出来ると遺伝子(DNA)治療も容易になります。
    医療では待ちに待ったナノバイオ時代の到来です。

    <健康予防と術後の予後に必要な計測技術>
    経年的に自分のサンプルでマーカーを測定してデータを取っていくと健康管理が出来ますね。

    しかし体内の疾患マーカーはまだ沢山あるもののそのレベルの低さゆえにほとんどが発見されていない、と考えられます。

    微量マーカーを見つけ測定可能とするためにはナノマテリアルや半導体技術などを駆使して、高感度かつ高精度な迅速簡便なナノデヴァイスを創ることが必須です。

    極めて低濃度で血中に存在していて既に測定出来ているものに各種のホルモンがあります。
    各ホルモンの標的細胞は血液を通して到達したホルモンが標的細胞にある受容体に結合することによって情報が伝達され、その細胞機能が制御されます。

    例えば男性ホルモンのテストステロンの血中濃度は~20 nmol/l、唾液では~200 pmol/lの濃度です。ピコはナノの千分の一です。

    唾液(本ブログ参考)の100 μl中には約6 pgあることになります。現在では測定に必要な分子の数は百億個以上です。

    今では実験室で、マイクロピペットで0.5 μlは日常使う液体の体積です。そして蛋白質やDNAは数ngがゲル電気泳動上で目視出来ます。

    さて抗原と抗体分子の結合具合や薬と結合する分子などの分子間相互作用が解析出来る、表面プラズモン共鳴装置という、数千万円もするハイテクの粋を凝らした大型機械があります。

    原理は、~20 ngの分子を金属膜チップに固定しておき、そこに加えた他の分子が結合すると当てたレーザー光の屈折率が変化するので結合の相互作用がモニター出来るのです。分子に標識をしておかなくとも情報がとれるのがこの仕組みの利点です。

    もし特異的に分子修飾したカーボンナノチューブを使うとそれに結合していた分子の状態が変わることでカーボンナノチューブの電気特性の変化としてモニターすることになります。工夫すれば感度が上がる新たなデヴァイスが出来るかも知れませんね。

    ガン検査ではがんマーカーが増大していてその疾患が分かります、が術後は低いレベルの維持を見守らなければなりません。まさかの時の素早い次の手が取れるかどうかで運命が変わるからです。
    今よりはるかに感度の良い装置や測定法の開発が必要とされています。

    David M.Rissin らは驚くべき測定法を開発しました。

    前立腺ガンのマーカーである前立腺ガン抗原(PSA)は根治的前立腺摘所の患者においてはこれまでの測定法では測定出来ませんでした、が彼らの方法によれば血清を用いて9.39-0.014 pg/mlと得られました(See, Fig. 4)。
    14 f(フェムト)g/ml即ち~400 a(アト)mol/lという低レベルの患者でも測定出来たのです。

    彼らはPSAを補足するビオチン化DNA結合の磁気ビーズと酵素が結合した特異抗体を使いました。そして蛍光分子を標識した基質とその酵素が反応するチェンバーの容量を50 flとすることによってこの快挙を得ました。

    血清での濃度が~1 f mol/lという低レベルの前立腺がん抗原は50 flのウエルの中でPSA分子一個が測れていたことになります。

    体内微量分子の測定可能濃度はナノからピコ、フェムトmol/lに到達しました。さらに千分の一のアトの世界へは、飽く無き挑戦が導くもの、ナノかもーーー


    これも前回ブログの小菊と同じで「ご自由にどうぞ」でした。
    花が全くしおれた鉢でしたがみごとに沢山咲きました。

    余りに美しかったのでお礼にみかんを持っていきました。
    花代より随分と高かったでした・・・・
      

  • Posted by 丸山 悦子  at 00:06Comments(2)ベンチャーはアドベンチャー

    2012年01月31日

    ‘禿げる’メカニズム

    <‘ピカッ’るヘアー産業>
    最近よく「泳いでも落ちない、ザー!」とか「載せるだけ、簡単ウイッグ!」のCMを見かけます。

    ヘアーケア産業で市場拡大が起きている、とのことです。

    マイクロスコープでの微細な観察と適切な養生のためには、皮膚や育毛の化学、髪の再生や移植の技術、人工毛髪の作製など、周辺テクノロジーも活発化するようです。

    実はそれがおしゃれのブーム、ということなら良いのですが、どうもその背景はハゲや薄毛が若年化した、ためらしいのです。
    そう言われてみれば、あのひとも、このひとも若いのに・・・・・

    昔は、薄毛や生え際の後退は母方からの遺伝とか、聞きましたがーーーそのメカニズムは解明されたのでしょうか?

    <勉強し過ぎるとハゲる、は本当か> 
    薄毛や脱毛は本質的には、毛包の縮小すなわち毛乳頭、毛根母細胞(図、左)の機能低下によって起こります。
    ですから毛細血管から充分な栄養や酸素が行かなくなれば毛包をはじめ母細胞の成長がやがて止まり、抜け落ちます。

    勉強で頭を使い過ぎると脳内に血液が行ってしまい抹消である毛根付近は貧血気味?それで禿げやすくなる、さも有りなむ、ですね。

    最近、皮脂腺からの過剰の脂質による悪影響が指摘されています。

    肉食に偏った生活が原因ともいわれます。

    脂質が毛穴を塞ぎ、やがて過酸化脂質により皮膚がダメージを受け雑菌の繁殖場となり、毛根細胞は障害され、成長がストップ、薄毛化です。

    ちなみに表面に出てくる髪自体は死んだ細胞です。毛包の中で毛母細胞が分裂成長するのです。

    また白髪の仕組みは毛髪の成長とは異なります。毛母細胞に隣接して、毛母細胞にメラニン色素顆粒を渡す色素細胞(図)が死滅したり機能異常をおこしたりして白髪になるのです。
    タバコの害は明らかのようです。

    <薄毛の分子メカニズム>
    何といっても薄毛や脱毛の分子機構の主人公は男性ホルモン(テストステロン)、いいえ、活性型男性ホルモンであるダイハイドロテストステロン(DHT)です。
    それとX染色体上に遺伝子があるアンドロゲン受容体ですね。

    男性型脱毛症の研究から、過剰のDHTが‘根腐れ’を導く、と考えられました。

    血液からのテストステロンは毛根では5α-リダクテースによってDHTとなって細胞内でのアンドロゲン受容体との結合能力が著しく上昇します。そしてその複合体は細胞の核内で毛母細胞が成長するために必要な成長因子の遺伝子発現を抑制してしまうのです。

    5α―リダクテースについては、糖や高脂肪食の取りすぎが皮脂やこの酵素の増大をもたらすのでDHTが増大して脱毛が起きることが分かってきました。

    食生活という環境が重要視されはじめた所以ですね。

    また男性脱毛症の遺伝子変異の研究から脱毛症のヒトでは、アンドロゲン受容体遺伝子上にあってこの受容体のレベルを決めるグルタミンCAGのリピート数が少ない、という報告があります。

    とにかく5α―リダクテースやDHT、アンドロゲン受容体のレベルの増大が元凶なのですね。

    それにしてもなぜ筋肉増強で有名な同化的作用を持つ男性ホルモンが毛細胞では増殖抑制なのでしょう。そして5α―リダクテースもアンドロゲン受容体も同じように存在するヒゲや前立腺腫ではなぜ反対である増殖促進となるのでしょうーー

    さらに不思議なことに5α―リダクテースの阻害剤やアンドロゲン受容体の拮抗剤は抗がん剤として使われ、その副作用は毛髪の脱毛です。そしてその副作用の出方はヒトによってかなり異なる、らしいのです。これまたなぜなのでしょう。

    <マイクロRNAの増大と脱毛症>
    最近、マイクロRNA(miRNA)は20-25塩基と短い一本鎖のRNAで蛋白質発現の制御をすることが分かって来ました(参考)。 
    図の右にmiRNAの合成と作用の仕組みを描きました。

    miRNAは細胞の核内でDNAから前駆体として転写され、細胞質でmiRNAに切断されるとmRNAに相補的に結合して蛋白質の翻訳を阻止します。

    Goodarzi HRらは男性型脱毛症と正常のヒトから毛乳頭の細胞を採取して培養し、まず遺伝子で発現の違うものを調べたところ脱毛症では30個の遺伝子の発現が上昇しているのを見つけました。

    次にデータベース情報から推定され得るmiRNAを選び出し、リアルタイム-PCR の方法で毛乳頭細胞でのレベルの違いを調べました。その結果mir221,,mir125b,mir106b,mir410の4個が3-4倍も対照よりレベルが高く、優位差(P<0.05)がありました (参考)。

    ちなみに前から3個のmiRNAは前立腺がんでも上昇しているmiRNAでした。

    今後これらのmiRNAがどのような遺伝子の発現を制御しているのか詳細に研究して細胞ごとの仕組みが解明されると、より効果的な発毛・育毛剤さらに抗がん剤の開発までも期待されます。

    さて女性の悩みについてです。女性は年齢とともに頭頂部の薄毛に悩むようになると思っていました。がどうも女性ホルモンのエストロゲンレベルの低下による更年期とは関係なく、30-40歳台で太さや密度の変化が激しいのです(参考)。解明して欲しいですね。

    どうも薄毛の若齢化は男女ともに、加齢による性ホルモンの低下(参考)とは関係がなさそうです。

    過剰栄養と社会の複雑化によるストレスが毛髪のダメージをもたらしている、といわれています。

    若ゲの至り、とならないようにまずは生活習慣をきちんとしましょう。



    以前、花屋さんの片隅の「ご自由にどうぞ」と書かれた缶の中でぺちょんとしていた小菊です。

    庭の隅に挿しておいたところいつの間にか元気イッパイに
    ヒカっています。。

    こちらは挿すだけで幾らでも殖えるのですが~~

      

  • Posted by 丸山 悦子  at 23:08Comments(0)脳神経生化学

    2012年01月06日

    資本金より資本をつくろう

    明けまして、謹んで新年のご挨拶を申し上げます。

    <絆と縁のソーシャル・キャピタル>
    資本と言えばマルクスの「資本論」、
    いえ「資本はこの鍛えた身体」と言う方もいれば、「沢山の友達が何よりの資本ョ」と言う方もいます。

    最近よく、人間関係の豊かさが社会の資本である、というソーシャル・キャピタルという語を目にします。

    昨三月の大震災では、誰もが何か差し出せるものがあるに違いない、と自分の時間、お金、体力を鑑みました。

    そして私たちは絆、見知らぬ方との縁のありがたさを認識し、社会的ネットワークの重要性を認識しました。
    このソーシャル・キャピタルは物的資本やヒューマン・キャピタルと異なって個人に属することなく、個人間の関係であるコミュ二テイで発揮されます。

    従って当然、人的資本に支えられ相互強化されていきますね(図、左)。

    <リーダーシップとフォロワーシップ>
    社会のあり方に目を向ければ、何はともあれひとびとの協調行動が社会組織の向上には欠かせないことを知ります。

    そして豊かな社会はコミュニケーションが活発でなければならない、ということが分かります。

    さらにそれが経済・社会面で好ましい効果となるにはリーダーシップの存在ばかりでなくひとりひとりが熟慮ある発言と行動を伴えるフォロワーシップ能力を持ち合わせることが大切、となります。

    TPOに応じて両シップを発揮したいですね。

    <健康資本>
    私は財政破綻に喘ぐ日本にとって今こそが、国民の健康資本について方策を打ち立てるべき時、と思います。

    健康資本は全ての資本の土台となるばかりではありません(図、左)。

    それは日本の平均寿命が世界一といえども健康寿命との差が10年近くもある、という大きな難題を解決する、と私は考えます。

    この難題は、介護を必要とする人生がとても長い、ということなのですから健康の維持が必須ですね。。

    税金で解決が出来ることとはどうしても思えないのです。

    スウェーデンで、26年間の長きに渡って健康調査がなされました(参考)。健康要素に男女の違いがあったのです。

    展望を持ってデータを集めることが大切ですね。

    ところでその調査の健康と適度なお酒の結果は意外でした。お酒は百薬の長、ストレスの解消ともいわれていますのでーーー

    お酒といえば絶えない飲酒事故が大問題です。

    日本人の場合は特に、適正量を規定することに難しさがあるのです。

    その理由はお酒が水と二酸化炭素に分解されるまでに重要である、肝臓のアルコール脱水素酵素とそれによって生じたアセトアルデヒドを分解するアセトアルデヒド脱水素酵素において、日本人特異的な遺伝子変異があるからなのです。

    モンゴロイドである日本人の欧米人にない一塩基変異(本ブログ、参考)はその組み合わせはいろいろとなり、何十、何百倍と個人によって違う感受性が生じてしまいます(図、右)。

    増えるアルコール依存症と絶えぬ飲酒事故は日本人遺伝子の見地から社会環境を見直す必要がありますね。

    こうした欧米の研究情報から得られない日本人特異な遺伝子多型による飲酒行動や疾患についてはぜひとも創造的な研究を行って健康日本を築きたいものです。

    <長寿社会での資本づくり>
    多くの人が罹る生活習慣病である多因子疾患は、各人固有の遺伝子多型の重ね合わせによるので解析をするのが困難、そして有病期間が長い、根治法がない、よって行き詰まっています。

    ですからまずは自分で自分の身体に投資して、健康という資本を貯めましょう。そしてしっかり健康の自己管理をしましょう。

    私の万歩計は、この一年は3、663、714歩です(本ブログ、参考)。

    目標が達成出来た秘訣は、およそ7日で7万歩、を目指したことでしょう。

    歩くことが良いのか、薬や病院には縁も無く、人生まっしぐら?です~

    日本にはヘルス・キャピタルを、

    私にはベンチャー・キャピタルを!!

    どうぞ本年も宜しくお願いいたします。
      

  • Posted by 丸山 悦子  at 22:20Comments(2)長寿健康社会

    2011年12月10日

    情報化社会では自分でデータを分析することが肝要

    <モグラが暴れた!>
    ナ何と、庭にモグラの跡が沢山!!!

    ナマズの髭が地震センサーであるようなことは有名ですがモグラのセンサーは???

    これまでにはなかったことです。

    大地震が来なければ良いが、と案じています。

    そこで気象庁サイトを訪問してみました。
    気象などの知識;地震について、を開けてみました。すると図、左上のような1996年以降の地震頻度に関するデータがありました。

    エクセルは表計算ソフトとして知られています。
    しかし加えて先のブログで描きましたようにいとも“エクセラント”に変数の関係をグラフなどに視覚化してくれるのです。

    <エクセル関数を使ってデータのビジュアル化>
    地震回数とマグニチュードの値を囲み散布図を描かせますと図の左下のような曲線が得られました。

    さらに関数式LOGで対数値を得て両対数を取ります。直線となることが分かりました。

    このことは地震の回数はマグニチュードの冪関数(累乗関数)として数式で示されることを示します。

    むろんエクセルの近似曲線をクリックすれば対数値を計算しなくとも図の中に近似直線を描いて一次方程式も示してくれます。

    更に関数CORRELを使うと相関係数0.94が求められ、回数とマグニチュードの相関が高いことが得られます。

    図を眺めてわかるようにべき関数では小さな度数を持つ沢山の事象と大きな度数を持つ少数の事象が共存して観察されています。

    このようにべき分布に従うものは正規分布と違って、平均値や標準偏差は意味がありません。

    べき関数式に従うものには、地震や山火事、金融恐慌、所得の分布、商売では売れる商品と売れない商品の量と売上額、そしてウェーバー・フェヒナーの法則といわれるヒトが感じる量と刺激強度の関係があります。

    メデイアによる影響が窺い知れない社会となりました。
    社会的インパクト理論では、社会的インパクトの大きさIは影響発信源の数Nの関数として表され、これも I=kN^aとなる、べき関数とのことです。


    そういえば、大昔習ったアレもべき関数です。

    ある日、教壇で先生は「ガリレオ・ガリレイ(伊、1564)はピサの斜塔から同じ大きさの鉄製と木製の玉を落として同時に落ちることを実証しました」と話されました。

    「私はもっと高い塔からでなければガリレオは勝てない!」と言ってしまいました。重いほうが早く落ちるというアリストテレス派の人たちは「距離が短いから」と反論できる、と思ったのです。

    私は話の腰を折るイヤな子供でした・・・・・

    ガリレオは医学を学びましたが数学や天文学に興味を持ち始め、実験を重ねて、ds/dt=gtを見出しました。
    積分するとf(t)=(1/2)gt^2+v0t+s0 となりますが初期値t=0でs=0です(図、右)。

    従って手を離してからの距離と時間の関係はs=(1/2)gt^2となります。

    重力加速度gは9.81m/sec2 です。
    べきの計算は関数式のPOWERで得てプロットします。すると図の右下のような放物線の半分が描けました。

    これもべき関数である証拠に両対数を取ると直線の近似曲線が得られます。


    実は、科学革命家であるガリレオが亡くなった年に、同じく偉大なる科学革命家であるニュートンが生まれています。
    ニュートンはガリレオの発見した現象を数式化して物理学体系を築き上げました。

    ちなみに多くの物理法則のみならず細菌の増殖などに見られる指数関数はべき関数と異なって片対数をとると直線が得られますね。

    <IT社会は自分デ情報を解析する社会>
    情報化時代では情報をどのように習得して評価し、活かすか、という情報リテラシーの向上が欠かせません。

    統計局には人口、経済、労働力およそどんな情報もあります。
    自分で分析できれば評論家やアナリストの言葉を鵜呑みにする必要はありませんね。

    エクセル分析ツールの中の基本統計量をクリックして表を得ます。この表中の平均値や中央値、尖度、歪度、標準偏差からデータの性質を見ます。
    試料の統計量から母集団の特性が推定されるのです。

    次に度数分布図であるヒストグラムをクリックします。左右対称か、散らばり具合はどうかを見ます。端に偏っているとべき乗法則である可能性があります。
    正規分布性はNORMDIST関数で確率密度曲線を一緒に描かせると比較ができます(参考)。

    身長や体重の分布やランダムに生じるような生物学的現象は平均値の上と下で度数が同じように分布します。そして標本サイズを上げれば正規分布に近づくのです。
    正規分布は確率的な分布ですので保険や偏差値にも使われています。

    健康管理のためにご自分のストレス分子や若返りホルモン?の変化、また運動効果の結果もどうなっているのかプロットしてみたくなった方もおられそうですね。

    さて、経営の拡大を目指していろいろと売り上げアップの努力をします。が本当にその効果があったのか、そのつど検証をしていかないと意味がありません。前と後、その効果の検定は関数TTESTによって危険率の値で評価が出来ます。
    また製品開発の効果もF検定やt検定をクリックして平均値の検定を行なうと、より正しい判断が出来、次の戦略を導くことが出来ます。

    私達が目指すことはデータをビジュアル化すること、数式解析をすること、そして自分の脳で言語化して新しい理解を得る。そして更に自分の仕事や健康のみならず社会問題の背景を認識する、ということでしょうか。

    今は金融恐慌時代、幼少時からグラフ化読み取る化の力が付いていれば、ファイナンスに長けて・・・・リスクとスリルに満ちたエクセラントな?人生が送れたかも~~


    十二月の空はカラっ風が強いせいか底なしの青さ、二階まで伸びたブラジル原産の薄紫の山保呂之がとても映えます。

    真冬を除いて1年中、次々と先端に花を付けます。

    山にある日本原産の山保呂之には赤い実がなるそうです。



      

  • Posted by 丸山 悦子  at 23:53Comments(0)エクセルはエクセラント