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Posted by たまりば運営事務局 at

2012年11月13日

長息が長生きの理由

<ミトコンドリアが命を作る!>
私たちが活動できるのはミトコンドリアがATP(アデノシン3燐酸)を作るから、と学校で習いました。

ミトコンドリアは大腸菌ぐらいの大きさで細胞の中でウジョウジョと何百、何千とひしめき合って融合したり分裂したりしています(図、右上のニコン社のN-SIM超解像ライブセルイメージング)。

運動選手の細胞内には元気なミトコンドリアが沢山とかーー

ところで動・植物のミトコンドリアや植物の葉緑体の起源は、それらのゲノム構造やヒストンがないことなどから、大昔に私達の祖先の細胞に入り込んだバクテリアである、と考えられます(図、左上)。

地球上に酸素が増え始めた20億年前頃、真正細菌は酸素を使ってエネルギーを作れるプレシャス?細菌でした。そこでそのワザが欲しい古細菌が一緒になりましょう、お願いします、と・・・・パクリ。

さあ、元気百倍(10倍?)、多細胞生物にだってなれるゾ~

というわけで私たちの祖先の誕生です。

<母は強し。。。>
不思議なことに私達の身体のミトコンドリアは全て母親由来です。

一個の卵細胞には何万とミトコンドリアがあります、しかし受精にあたっては父親からのミトコンドリアは入っても用なしです、とばかりに排除されてしまいます。

核の遺伝子は父と母から1セットづつなのにミトコンドリアの遺伝子は母親と同じもののみ・・・

さらなるミトコンドリアの特徴として、分裂が激しいのでその遺伝子変異が極めておこりやすいことがあります。
卵細胞のミトコンドリアを傷物にはしたくありませんね。おくるみしておきたいほど愛しい?。。。

貴女の細胞環境は良好でしょうか?

<共生による大躍進>
さて20億年前の細菌同士の合併・吸収はその後どうなったでしょうか。

解糖系だけだと2個のATPしか作れないのが好気細菌の電子伝達系とATP合成、すなわち酸化的燐酸化の能力が加わったおかげで10倍以上増産できました。

飲み込まれた真正細菌の膜にあった電子伝達系、いわゆる呼吸鎖はミトコンドリアでは内膜上に位置することとなります。
複合体ⅠからⅣまでの大きな蛋白質の酸化還元反応によって電子が複合体Ⅳまで流れるとともにプロトンが膜の外に汲む出されることになります。
内膜と外膜の間に貯まったプロトンは勾配によって複合体ⅤといわれるATPエースに入り込み、酵素の構造を変えて活性化しATPを産生するのです(図、左下)。

M&Aの成功です。さらに新たな拡大も。。。

やがてミトコンドリアは、障害が修復できなくなると自らを殺すプログラムを獲得しました。ホストの核で合成された細胞死を実行する蛋白質をミトコンドリアに局在させました。いわゆるアポトーシス実行部隊が完備されたのです。

こうしてミトコンドリアは細胞の生死の制御を繰るようになりました。

癌やアルツハイマー病、パーキンソン病の原因もミトコンドリアの異常によるといわれています。

<アルツハイマー病で障害されるミトコンドリア複合体Ⅳ>
M & Aによる成功戦略はミトコンドリアが自分で生きていかれる遺伝子のほとんどをホストの細胞の核に移動させたことにあるかもしれません。
呼吸鎖がうまく働いていても活性酸素が生じ、DNAなどの障害の原因となります。ホストの核にDNAを非難させておけば安心して増殖できる・・・

今やミトコンドリアではたったの13個のミトコンドリア遺伝子で蛋白質を発現するのみです。ですから呼吸鎖の各複合体の構成蛋白質は核の遺伝子と自前の遺伝子によって作った混合です。

呼吸鎖で電子を受け取る最終アンカーの複合体Ⅳ(図、左下)はサイトクロームcオキシデースです。13個のサブユニットからなる分子量25万くらいの大きな内膜貫通型の蛋白質です。
ウシ心筋のサイトクロームcオキシデースの膜内構造が示されました。

最近、そのサブユニット1(左上をクリック) にアルツハイマー病で蓄積してくる原因分子のAβペプチドが結合するという論文がでました。結合場所は電子をこの酵素が受け取るコア部分です(参考、図の6)。

肝心要の呼吸鎖に他の分子が結合して電子の流れが障害されると、ATPが出来なくなるばかりでなく活性酸素が沢山発生し、ミトコンドリアの活動のみならずDNAも障害されることとなります。ちなみにこのサブユニット1はミトコンドリアにある遺伝子が作りますからAβの結合はこの遺伝子にもすぐ影響しそうです。
神経細胞で障害が修復しきれなくなると神経細胞死がおきます。神経変性疾患となり痴呆がすすみます。

私たちは日頃から細胞内の抗酸化力を高めたり、サイトクロームc酸化酵素が電子を受け渡せるように酸素を十分供給することが重要となりますね。

ため息ではなくして長息で、元気なミトコンドリアを細胞にいっぱい増やしましょう!


白い花が大好き、とおっしゃられて細川先生は朝鮮朝顔と永良部(高砂?)百合の種を下さいました。

75歳を越えてもエピジェネティクス研究のためにヒストン修飾の膨大な数字データの解析をしていらっしゃった先生のお姿が重なります。

光陰矢の如しです。

分析器械は精巧化してきますが測定に賦する標品の調整はいまなお生化学のなせるわざですね。そう思って科研費の獲得にも頑張っています!!
  

  • Posted by 丸山 悦子  at 23:28Comments(2)脳神経生化学

    2012年10月12日

    細菌が脳卒中をおこす!!!

    <生と死は紙一重・・・>
    脳梗塞は戦後5倍にも増大しました。

    脳梗塞は脳出血、くも膜下出血、一過性脳虚血発作(脳梗塞の前兆)とともに脳卒中といわれ、脳血管障害に分類されます。

    脳卒中は後遺症が治らず生活の質を著しく低下させてしまう疾患です。

    厚労省の脳卒中のページを開けてみましたら‘脳卒中は生活習慣病だ’の字句が目に飛び込んできました。
    リスク原因がいろいろ挙げられています(図、左上)。

    30代の頃、品行方正のお友達がくも膜下出血で脳をかぱっと開ける手術をしました。

    激しい頭痛で自ら救急車を呼んで病院へ運ばれると、たまたま脳外科医がいて直ぐ開頭したそうです。

    そしてベッドの上で気がついた時は数ヶ月が経っていたとのこと。その間の記憶だけは全く思い出せず・・

    お子さんもまだ小学生でした。脳血管は金属クリップで止めてあるので笑っても怒っても駄目、プールもいけないので大変、と話していました。

    会うといつも生死を分けた一瞬の良い判断を喜び合います。

    <神経細胞死を防ぎたい>
    脳卒中は1980年まで死因一位でしたが医学が進み、死亡率は確実に減っています。しかし患者数は癌患者なみに多いのです。

    現在、65歳の日本人の余命は男性が19年、女性は24年もあります。江戸時代なら0年です・・・

    寝たきりや半身不随で過ごしてよいのでしょうか。

    加齢になって長期の高血圧などで脳の細い動脈に血流障害が生じて神経細胞が死ぬと日本人に多い血管性痴呆となります。欧米ではアルツハイマー病の痴呆が多いですね。

    何とか予防や予知が出来ないものでしょうか(本ブログ)。

    脳内毛細血管の長さは地球二週半もあるといわれています。

    無数の毛細血管は見えませんが脳内血管の映像(右内頚動脈の側面像)です。

    動脈硬化(図、左下)で血管内腔が塞がり、その先の脳細胞に血液が送れなくなると脳細胞は酸素欠乏と栄養不足になります。この状態を脳虚血といい、しばらくすると脳細胞は死に脳梗塞になります(図の右下、上)。
    脳出血の場合も局所的な環境の悪化で神経細胞が死にます(図の右下、下)。

    その場所が運動に関係するところなら運動麻痺が起こり、感覚に関係があればしびれなどの知覚障害が、言語に関係があれば言語障害(失語)がおこるということになります。

    治療は血管内に血栓が詰まる脳梗塞では血栓を溶かしたり、固まらないように治療します。血栓溶解療法・抗血小板療法・抗凝固療法などがありますが生体が持つ複雑な連鎖反応があるためまだ制御がとても難しい治療です。

    <ミュータンス連鎖球菌が脳出血を起こす!!!>
    驚きの論文を目にしました。

    ミュータンス連鎖球菌は口の中にモショモショ沢山いる虫歯菌です。
    虫歯菌の中にコラーゲン結合蛋白質を合成する菌があります。

    血中のその菌は動脈硬化や高血圧で血管壁に傷がついたとき、その部位ではコラーゲンがむき出しになるので結合するとのことです。

    普通は傷を治すために血小板が集まってくるのに菌が傷に集まり、血小板の集合を抑制してしまうのです(図、右上)。それで傷口から出血が止まらずに脳卒中となるわけです。

    中野博士らは疾患モデルマウスでミュータンス連鎖球菌のPCRを脳や他組織でおこなったところ脳のみしかも損傷側でその菌のDNAを検出しました。そして血管壁損傷部位にその菌が局在しているとを明らかにしました(参考)。

    歯周病菌も元凶だと聞きます。狭心症や心筋梗塞の原因となり、ときに心臓で菌によって増えた血栓(図、左下)は脳に流れていき脳梗塞もおこすとかーー

    脳の健康のためには口の中の衛生も大変重要なことが分かりますね。

    ヒトは細菌との共生体といえます。なぜなら私たちの身体には100種類以上の菌種と自分の体を作っている細胞数よりはるかに多い100兆個もの菌がいるからです。

    親から貰った遺伝子のみならず将来はペットモドキ?の細菌遺伝子も個人情報の遺伝子となりそうです。

    口の中の菌は幼児期に親から感染して増えるようです。口の中にどんな菌がいるのかは簡単に調べられます。自分が脳卒中になりやすいかどうか分かれば注意ができますね。

    なにはともあれ細菌が血液に入らないように傷を作らないこと、そして血管の内壁に傷を作らないように、‘血液さらさら’を心がけた生活にすることが一番です。



    ナスは動脈硬化や高血圧を予防するそうです。

    あきなすびよめにくわせよ~~

    鉢植えですがとても美味しいナスです。

    赤とんぼが茄子紺の実と碧い空を行ったり来たりしています。

      

  • Posted by 丸山 悦子  at 22:50Comments(0)脳神経生化学

    2012年09月11日

    ハーブはハーブでも・・合(脱)法ハーブは、

    <Casa Blancaは‘自由’の香り~>
    カサブランカはポルトガル語で‘白い家’です。
    その名にふさわしく3枚の顎片も3枚の花びらも真っ白で、花の大きさも百合の中で最大です。


    カサブランカと言えば映画の「カサブランカ」のシーンが思い出されます。
    その舞台はモロッコのカサブランカという一大商業都市(図の左上)です。

    時は1941年、ナチスドイツはポーランドを奪い、フランスを制覇し遂にフランス配下の北アフリカのモロッコまで侵攻してきました。

    地下レジスタンスの夫とともに自由の国に脱出しようとモロッコに来た彼女ですが、追い詰められてもう時間はありません、残る手は一つーーー

    彼女は、自分から黙って去ったかつての恋人に頼むしかない、と悟ります。というのは、偶然にもカサブランカでバーテンダーをしている彼と再会し、何と彼は闇の世界に通じている人間であることを聞き知ったからでした。

    夜霧が煙る空港を、彼の機転によって夫妻は危機一髪で自由の国に飛び立つのです・・・・

    命を守るためにヒトは逃げる知恵を得ました。

    植物は外界の刺激に対抗して多種多様の分子を代謝産物として創出しました。

    <忍耐とレジスタンスの産物はーー>
    百合の香りは芳香族化合物の中のテルペン類であるリナロールによるそうです。

    芳香を特徴とする分子はヒトの脳にはリラクゼーションをもたらしアロマ剤として使われます。

    植物にとっては、良い香りによって虫を呼び寄せて受粉の効率を上げ種族維持というわけです。

    また生き残りを賭けて、害虫やウイルス、細菌感染から逃れようと、病害を修復しようと、いろいろな分子を進化の過程で獲得しました。

    中にはヒトに死をもたらす毒物も少なくありませんね。

    ケシのアヘンや大麻のマリファナの成分が植物にとってどんな役目があるのかは謎です。

    しかし私たちにとっては、これらに含まれる分子が中枢神経に激しく作用し耽溺をおこすので、向精神薬として医師の処方箋を必要とさせ、法で規制しています(図、右上)。

    これらは量と投与法によっては治療薬としても使われ得ます。しかしその強い薬物依存性は、特に発達段階にある若年者の濫用は、神経情報伝達が正しく制御できなくなってしまい人格が破綻するので厳しい規制が必要なのです(図、左下)。

    近年新たな大きな問題が出てきました。

    それは化学合成技術の向上によって膨大な数の類似構造体が合成可能となり、さらにネット販売のグローバル化によって、その薬理作用も未解析のままに容易く人々の手に届くようになってしまったことです。
    化学式が同じでも鏡像体では効果が何倍も強くなったりするのです(参考、図2)。

    天然成分が入っていないいわゆる脱法ハーブなるものがお香や芳香剤の名で広がっているのです。「Spice」「Aroma」「Dream」など多数です。どんな危険な分子が混入しているかは想像だにありません。

    ですから先日、厚労省が個々の分子でなく、とにかく精神に作用する分子を規制する法律を作る、としたのは快挙ですね。

    <脳の内在システムを壊す類似の合成分子>
    向精神薬の怖さは、一時の酩酊、多幸感が身体に耐性を作って離脱症状をもたらすことに尽きます。その部位はというと線条体の前下方の数mmの側坐核です。

    多幸感は線条体近くのドパミン系が活性化され、伝達物質であるドパミンが放出することによる、と考えられます。しかし快感中枢には前頭前野、扁桃体、海馬などからの入力があり、その効果には多くの要因が複雑に絡むため耽溺や異常行動、呼吸や心臓への害の表れ方は他の薬の既往歴など、個人差が激しく危険度は推し量れません。

    やはり、シアワセは薬に頼むものではないですね。

    <内在性分子と受容体の生化学>
    私たちの脳内では、オピオイド受容体(モルヒネ受容体)に結合して鎮痛作用や多幸感を起こす故に‘脳内麻薬’と言われるオピオイドペピチドや、神経情報伝達物質のドパミンに由来する分子が内在的に合成されています。

    オピオイド受容体にはδ、σ、κなど沢山見いだされつつあります。

    また、脳には内在性カンナビノイドシステムがあります。

    脳内にある内在性カンナビノイドはその受容体を通して脳の発達や神経細胞の生長を制御していることがわかりました。

    このカンナビノイドの受容体に、大麻の耽溺の主成分、テトラハイドロカンナビノール(THC)やその誘導体が結合するのです(図、右下)。

    合(脱)法ハーブに含まれるこのTHC誘導体や異性体は、親和性があるそれぞれの脳内の受容体に結合して細胞を異常にして、そして脳機能を破綻させるのです。

    カンナビノイド類の脳内分子機作は未だ解明が難しく、これまでカンナビノイド受容体CB1が中枢神経系に、CB2が抹消に存在すると考えられて来ました。

    ところが最近、脳でこのCB1とCB2の蛋白質は細胞膜上で結合して内在性カンナビノイドの受容体を形成していることが報告されました(参考)。

    新規の受容体が発見されると構造生物学やバイオインフォマテイックスによってその受容体への結合分子の候補が浮かぶことでしょう。
    そして新規脳内生理活性分子としての確立は遺伝子解析によるよりは化学合成や精製の生化学、そして細胞生物学が役立つに違いありません。

    こうした研究成果を生かして、精神病で苦しむひとりひとりに適切な新たな治療薬が開発されることを願って止みません。



      

  • Posted by 丸山 悦子  at 23:17Comments(2)脳神経生化学

    2012年06月10日

    健康の分子マーカー探索に新兵器!!

    <大海の砂粒を探す術はーー>
    健康の分子指標は大海の砂粒の如し、です(図、左上)。
    しかし計測技術を高め個人の測定値を得て、そのデータを管理・情報化していけばきっと健康長寿がもたらされます・・・・


    ドイツのミュンヘン大学において超微量で瞬時に生体成分の結合反応速度論的解析が出来る器械が開発されました。
    温度泳動的生体分子間相互作用解析装置(MST)です。

    これまで生体成分の検出法としてはELISA法やSPR法が汎用されています。

    ELISA法では検出したい分子に結合する分子を固相化しておき目的分子を結合させてからさらに標識をつけた別の結合分子と反応させます。標識の酵素活性や光学的性質を用いて測定値を得ます(図の右)。しかしそのためには結合後にB/F分離という未結合の成分を良く洗う操作が必要です。

    SPRセンサーもチップ上で生体成分と親和性を持つ分子を固相結合させます。この場合は標識分子を使う必要がなく、複合体生成で増大した質量によって生じるプラズモンの変化を電光的に検出します(図の右)。数千万円、と高価です。

    MST法による検出は原理が全く異なります(図の左下)。
    多成分混合系において局所的にわずかの温度を上げることによってできる温度依存的な濃度勾配による蛍光標識分子の蛍光強度の変化から分子動力学計算をします。

    その開発者は社長でもあるミュンヘン大学のDuhr博士です。
    分子の温度泳動理論に基づいて核酸の構造安定性の解析や生体成分の検出の応用研究に邁進されています。

    MST法ではより生体内に近い状態とすべく、上の二つの装置とは異なりキャピラリーの溶液中で結合反応を行います。
    キャピラリー(径、0.1 mm)の反応溶液量は~250 nlで米粒の百分の一の量もいらないようです。そして測定時間といえば一分以内という迅速さです。
    本体はパソコンサイズです。

    さらに素晴らしいのがソフトウエアです。16本のキャピラリーに同時にサンプリングして一気にキネティクスの値が得られるのです。
    日本にはまだ一台、1500万円とのことです。

    <なぜバイオマーカーの発見が難しいのか>
    どんなセンシング技術がバイオマーカーの発見をもたらすのでしょうか。

    ゲノム塩基配列は生物を構成する蛋白質やRNAの設計図です。
    ところが遺伝子から読み取られる各個人の蛋白質は遺伝子の突然変異やSNP(本ブログ )のためにまた後天的なDNAの修飾(本ブログ )によってその発現のレベルや分子構造が多様に変わり得ます。
    またアルツハイマー病やうつ病でおきるという蛋白質のプロセシング異常では蛋白質の大きさが違ってきます。
    これらの変化は当然、相互作用する分子の相手や結合の親和性などが変わり代謝異常や疾患の原因となります。
    例えば酸化ストレスによる酵素の修飾による構造的変化とそれがもたらす結合パートナーの選択の変化は細胞の生死に関わるシグナル伝達を大きく変貌することが生化学的に示されました(本ブログ)。
    確かにこのような生化学的な解析技術はナノの世界(本ブログ)を超えつつありますがその工程の複雑さのために生化学者でも並みの技と時間ではなし得ません。
    そこで期待するのが準備や操作がシンプルでかつ分子間の解離定数を数分で検出してくれるこのMST法なのです。

    <キネティクスで疾患の解明>
    自分の血液中に自己抗体が出来てしまう難病は重症筋無力症や全身性エリテマトーデスなど多く知られています。

    Lippok らは自己抗体疾患であり心臓の病気である拡張型心筋症についてMST法を用いました。

    拡張型心筋症ではβ1アドレナージック受容体に対する自己抗体が血清中に増えてしまい、それが細胞外の受容体部分に結合してしまうので心筋細胞内へのシグナル伝達情報が過多となり心臓が障害されてしまいます。

    そこで彼らはβ1アドレナージック受容体の細胞外アミノ酸配列部(COR1)を合成して標識分子として、まず健常なヒト血清中の自己抗体について解析しました。(参考)。

    ヒト血液中には抗体分子である種々のイムノグロブリンが高濃度に存在しています。ですからクルードなサンプルでダイレクトに解析できたことは極めて快挙です。創薬の開発にも貢献するでしょう。

    この研究結果は自己抗体が約100 nMと検出されたので、血中IgGが10 mg/mlとすると1000分の1くらい、この自己抗体があることになりますね。患者サンプルとの比較の解析結果が待たれます。

    私たちが測りたい分子(図、左上)はストレスや環境の変化に応答しやすく、その測定値は個人の状況の違いによっても変動が大きいでしょう。

    従って、どんなサンプルにも対応出来、広いレンジ幅で測定出来る、そしてキネティクスの値が即座に得られる、というMSTの測定法はホープとなりそうです。






      

  • Posted by 丸山 悦子  at 19:55Comments(0)脳神経生化学

    2012年05月20日

    紫外線がコワ~イ季節です。その理由は

    オゾン層が破壊されて有害紫外線が増大
    シミ、シワ、タルミなど肌が一番ダメージを受けて老化が進むのがこの季節です。

    特に近年は、自然界にはなかった化学物質のフロン(クロロフルオロカーボン)などによってオゾン(O3)層が破壊されたため(図、左上)、オゾン層による有害紫外線の保護効果が減少してしまいました。
    そこで、この有害線暴露による白内障や子供の皮膚がんの増大が心配されています。

    紫外線と呼ばれているのは、太陽からの種々の光線のうち可視光線より短い、10-400 nmの波長の電磁波(本ブログ)をいいます。

    電磁波のエネルギーは波長が短いほど大きくなります。太陽から大気圏を通過して地上に達して有害となるのは285-400 nmのものです(図、右上)。

    エネルギーは強度((図、右)に時間が掛け合わされますので、障害は日照時間や晴天日が多くなる初夏に大きくなる訳です。

    ヒトに有害な紫外線であるUV-BとUV-A(図、左)は、むき出しである目や皮膚においてスーパーオキサイドアニオン(・O2-)やハイドロキシラジカル(・OH)などのフリーラジカルを含む活性酸素種を発生させ細胞膜やDNA、コラーゲンなどを損傷します(図、左下)。

    すなわち、酸化障害が老化を進めるということになりますね。

    フリーラジカルは分子の最外殻軌道に不対電子を持つ分子のことです。他から電子を奪う力が強く、連鎖的な電子の略奪反応が細胞や組織で進んでしまいます。

    フリーラジカルの消去法
    細胞を障害する体内のフリーラジカルを無害化するために私たちは食品として抗酸化物質を日々摂取します。野菜や果物に豊富なアスコルビン酸(ビタミンC)(本ブログ)、α-トコフェノール(ビタミンE), CoQ10(コエンザイムQ10)(本ブログ)、フラボノイド、ポリフェノールなどですね。

    これらの抗酸化物質は、植物が進化の過程において自らの代謝過程で生じた活性酸素に耐えるために合成が可能になった分子です。

    植物も私たちも酸素を使って代謝のエネルギーを得るかぎり、死が不可避なように、体内で生じた副産物の活性酸素からも逃れられないのです。

    でも動物は、害のある活性酸素を除くためにもっと巧みな仕組みを獲得しました。上記の抗酸化分子では一個が一個をやっつけておしまいです。私たちは酵素というタンパク質による酵素反応のサイクルによる仕組みを獲得しました。

    すなわち、酵素を自分の遺伝子で合成して、その酵素反応によって効率よく即座に有害な活性酸素種を消去するのです。

    ・O2-を酸化してH2O2にするのがスーパーオキサイドディスムテース(SOD)という酵素です。私たちの細胞の内外には幾種類かのSODが存在し、即座に・O2-を捕捉します。

    ところが放射能物質から出る電磁波である放射線による被曝では酵素を以ってしても消去が追いつかず発ガンのリスクが一挙に高まってしまいます。

    生命力とは、まさにラジカルや活性酸素を消去する力、そして細胞の損傷を修復する力、となりましょうか。そしてあと一つ、免疫細胞が積極的に武器として・O2-を発生させて細菌を殺す防御力、ですね。

    最近、抗酸化酵素であるSOD1のアミノ酸が酸化されると筋萎縮性側索硬化症(ALS)(本ブログ)という神経変性疾患を起こす、という新たな視点の論文が報告されました。

    ALSの発症メカニズム: SOD1の構造変化がもたらす細胞の生と死・・・・>。
    ALSは運動神経が特異的に死んでいき筋肉が動かなくなる病気です(図の右下)。動作だけでなくついには呼吸も出来なくなります。現在は治療法がありません。

    ALSを発症した宇宙物理学者であるホーキング博士が車椅子でなお研究発表を続けていた映像が思い出されます

    この疾患はほとんどが突発性であり(sALS)、遺伝性のALS(fALS)は10%以下です。

    既にfALSの一部の患者でSOD1のアミノ酸変異が生じていることが見つかっていました。がその他の場合ではどういう分子が毒性を生じて運動神経を死なせるのか想像だにありませんでした。

    Guareschiらは正常人,sALS, SOD1が変異しているfALSの患者から採取したリンパ母細胞を培養してSOD1について調べました(参考)。

    sALS患者の細胞を酸化処理したところfALSの特徴と同じくSOD1の細胞内凝集が見いだされました。

    さて、細胞のミトコンドリアには細胞の生死を決定するBcl-2という分子があります。ストレスの状況に応じて幾つかのシグナル分子との結合と解離を介して細胞の死を抑制する重要な分子です。

    彼らは、fALSでこのBcl-2と変異SOD1が結合しているのと同じように、酸化修飾を施したsALSのSOD1でもBcl-2が結合していることを見つけました。

    すなわちアミノ酸突然変異というSOD1の構造変化がBcl-2との結合を可能としたように、SOD1の酸化による構造変化も同じ分子相互作用の異常を起こして、発症に至らしめたことが考えられます。特に発症の開始時期には酸化処理によらずとも既に酸化修飾がされていてまた凝集も起きていました。
    従って、発症の引き金の仕組みとしてSOD1の酸化が提示されるのです。

    彼らはSOD1がBcl-2と結合するとBcl-2タンパク質のBH3領域が構造的に表面に露出し細胞死のシグナルとなる可能性を構造特異的に認識する抗体を用いた免疫沈降法によって示しました。

    今後、このように酵素の修飾とそれがもたらすパートナーの選択についての詳細は、先端学問であるバイオインフォマティックスの領域でも解明されて欲しいものです。

    データでは面白いことに、正常人由来の細胞においては、sALS由来細胞での結果とは異なって、過酸化の状況でもBcl-2とSOD1は結合していない、ということが分かります。
    いったい正常人由来細胞では過酸化されてもSOD1がミトコンドリア膜に局在するBcl-2と結合しなかった状況とは何なのでしょうか。

    酸化処理によるミトコンドリアの耐久力に関する分子機構の解明、そしてバイオマーカー測定法の確立には特異抗体を用いた微量神経生化学のテクノロジーがまだまだ期待されそうです。




    “ドイツあやめ”とも呼ばれ、フランスの国花です。

    花言葉は「あなたをずっと大切にします」です~
      

  • Posted by 丸山 悦子  at 22:17Comments(0)脳神経生化学

    2012年01月31日

    ‘禿げる’メカニズム

    <‘ピカッ’るヘアー産業>
    最近よく「泳いでも落ちない、ザー!」とか「載せるだけ、簡単ウイッグ!」のCMを見かけます。

    ヘアーケア産業で市場拡大が起きている、とのことです。

    マイクロスコープでの微細な観察と適切な養生のためには、皮膚や育毛の化学、髪の再生や移植の技術、人工毛髪の作製など、周辺テクノロジーも活発化するようです。

    実はそれがおしゃれのブーム、ということなら良いのですが、どうもその背景はハゲや薄毛が若年化した、ためらしいのです。
    そう言われてみれば、あのひとも、このひとも若いのに・・・・・

    昔は、薄毛や生え際の後退は母方からの遺伝とか、聞きましたがーーーそのメカニズムは解明されたのでしょうか?

    <勉強し過ぎるとハゲる、は本当か> 
    薄毛や脱毛は本質的には、毛包の縮小すなわち毛乳頭、毛根母細胞(図、左)の機能低下によって起こります。
    ですから毛細血管から充分な栄養や酸素が行かなくなれば毛包をはじめ母細胞の成長がやがて止まり、抜け落ちます。

    勉強で頭を使い過ぎると脳内に血液が行ってしまい抹消である毛根付近は貧血気味?それで禿げやすくなる、さも有りなむ、ですね。

    最近、皮脂腺からの過剰の脂質による悪影響が指摘されています。

    肉食に偏った生活が原因ともいわれます。

    脂質が毛穴を塞ぎ、やがて過酸化脂質により皮膚がダメージを受け雑菌の繁殖場となり、毛根細胞は障害され、成長がストップ、薄毛化です。

    ちなみに表面に出てくる髪自体は死んだ細胞です。毛包の中で毛母細胞が分裂成長するのです。

    また白髪の仕組みは毛髪の成長とは異なります。毛母細胞に隣接して、毛母細胞にメラニン色素顆粒を渡す色素細胞(図)が死滅したり機能異常をおこしたりして白髪になるのです。
    タバコの害は明らかのようです。

    <薄毛の分子メカニズム>
    何といっても薄毛や脱毛の分子機構の主人公は男性ホルモン(テストステロン)、いいえ、活性型男性ホルモンであるダイハイドロテストステロン(DHT)です。
    それとX染色体上に遺伝子があるアンドロゲン受容体ですね。

    男性型脱毛症の研究から、過剰のDHTが‘根腐れ’を導く、と考えられました。

    血液からのテストステロンは毛根では5α-リダクテースによってDHTとなって細胞内でのアンドロゲン受容体との結合能力が著しく上昇します。そしてその複合体は細胞の核内で毛母細胞が成長するために必要な成長因子の遺伝子発現を抑制してしまうのです。

    5α―リダクテースについては、糖や高脂肪食の取りすぎが皮脂やこの酵素の増大をもたらすのでDHTが増大して脱毛が起きることが分かってきました。

    食生活という環境が重要視されはじめた所以ですね。

    また男性脱毛症の遺伝子変異の研究から脱毛症のヒトでは、アンドロゲン受容体遺伝子上にあってこの受容体のレベルを決めるグルタミンCAGのリピート数が少ない、という報告があります。

    とにかく5α―リダクテースやDHT、アンドロゲン受容体のレベルの増大が元凶なのですね。

    それにしてもなぜ筋肉増強で有名な同化的作用を持つ男性ホルモンが毛細胞では増殖抑制なのでしょう。そして5α―リダクテースもアンドロゲン受容体も同じように存在するヒゲや前立腺腫ではなぜ反対である増殖促進となるのでしょうーー

    さらに不思議なことに5α―リダクテースの阻害剤やアンドロゲン受容体の拮抗剤は抗がん剤として使われ、その副作用は毛髪の脱毛です。そしてその副作用の出方はヒトによってかなり異なる、らしいのです。これまたなぜなのでしょう。

    <マイクロRNAの増大と脱毛症>
    最近、マイクロRNA(miRNA)は20-25塩基と短い一本鎖のRNAで蛋白質発現の制御をすることが分かって来ました(参考)。 
    図の右にmiRNAの合成と作用の仕組みを描きました。

    miRNAは細胞の核内でDNAから前駆体として転写され、細胞質でmiRNAに切断されるとmRNAに相補的に結合して蛋白質の翻訳を阻止します。

    Goodarzi HRらは男性型脱毛症と正常のヒトから毛乳頭の細胞を採取して培養し、まず遺伝子で発現の違うものを調べたところ脱毛症では30個の遺伝子の発現が上昇しているのを見つけました。

    次にデータベース情報から推定され得るmiRNAを選び出し、リアルタイム-PCR の方法で毛乳頭細胞でのレベルの違いを調べました。その結果mir221,,mir125b,mir106b,mir410の4個が3-4倍も対照よりレベルが高く、優位差(P<0.05)がありました (参考)。

    ちなみに前から3個のmiRNAは前立腺がんでも上昇しているmiRNAでした。

    今後これらのmiRNAがどのような遺伝子の発現を制御しているのか詳細に研究して細胞ごとの仕組みが解明されると、より効果的な発毛・育毛剤さらに抗がん剤の開発までも期待されます。

    さて女性の悩みについてです。女性は年齢とともに頭頂部の薄毛に悩むようになると思っていました。がどうも女性ホルモンのエストロゲンレベルの低下による更年期とは関係なく、30-40歳台で太さや密度の変化が激しいのです(参考)。解明して欲しいですね。

    どうも薄毛の若齢化は男女ともに、加齢による性ホルモンの低下(参考)とは関係がなさそうです。

    過剰栄養と社会の複雑化によるストレスが毛髪のダメージをもたらしている、といわれています。

    若ゲの至り、とならないようにまずは生活習慣をきちんとしましょう。



    以前、花屋さんの片隅の「ご自由にどうぞ」と書かれた缶の中でぺちょんとしていた小菊です。

    庭の隅に挿しておいたところいつの間にか元気イッパイに
    ヒカっています。。

    こちらは挿すだけで幾らでも殖えるのですが~~

      

  • Posted by 丸山 悦子  at 23:08Comments(0)脳神経生化学

    2011年06月30日

    三鷹には鷹がたくさん!!!

    <梢の鷹の威厳>
    私はスーパーに行くのに、よく半丁ほど先の小さな「野鳥の森公園」をショートカットします。

    先日、小径で背の高い脚立にカメラを据えた方が「望遠です」と言って私にファインダーを覗くよう目配せなさいました。

    小さいファインダーの中央には、何か白っぽいものがーーー。

    私は、楓の後方の赤松のそのまた後の高い木の枝別れ、その特徴を頼りに顔を上げていきました。

    そして、白い胸を我が目にした時「鷹だ!」と思わず叫んでしまいました。

    「そう、三鷹には鷹が多いんですよ」と微笑むカメラマン。
    「三羽?」と私。

    鷹は、始めて見た私でもその体が知れるほどに、自信の気が伝わってきました。
    戦国の武将が鷹をシンボルとして好んだ理由をまさに知れり、なのでした。

    少し歩いてから私は思わず振り返ってしまいました。
    鷹の足と鷹匠?カメラマンに紐でもあるか、と思ったのでした~

    <お狩り場>
    少し先の御殿山あたりは徳川公の鷹狩りの場であったことは知っていました。
    それは鷹を使って小獣の狩をする、いわば英国貴族の狐狩りのような高級な戯れごとのはずです。

    まさか鷹が沢山いるので三鷹?とは思いもよらぬことでした。
    ホントのところは如何でしょうか。

    <色の情報処理>
    猛禽類の鷲・鷹は高いところから獲物を見つけ、自分より大きいものでも掴み去る空のハンターです。
    あの鋭い目!鷲・鷹こそ動いているものを瞬時に捉えられる動体視力の権化?なのです。

    視覚は、電磁波(図の上)のうち外からの光を刺激として感じる感覚で、光が目の網膜を刺激して、そこに生じた神経的な興奮が大脳の視覚野(図の左)に伝えられ、色を認識します。

    光の刺激を受容して電気信号に変換する視細胞は網膜にあり、桿体細胞と錐体細胞という2種類があります(図の右)。桿体細胞は明暗を識別、色は錐体細胞です。

    鷹の優れた視覚能力は動体視力におけるピントの調節力のみならず特別な視細胞の仕組みにあります。

    まず紫外線(図の上)で、視覚情報に使えるようです。あの大空でよく白内障になりませんね。
    ちなみにヒトは紫外線を認識しませんし、紫外線は極めて有害です。

    実はこれには仕掛けが有りです。すなわち鷹は色を感じる錐体細胞にいろいろな色の油滴(図、右)という光の集光とフィルターの役目をする細胞内小器官を持っているのです(参考)。これによって紫外線の害から守り、多くの色の区別を行なっています。この油滴は私達にはありません。

    色の識別の分子機構は、桿体や錐体細胞の視物質(ロドプシンやオプシンなど)がある波長を吸収することよって構造が変わると、細胞内酵素(サイクリックGMP-ホスホディエステラーゼ)が活性化され、サイクリックGMPが分解されて神経細胞へ種々の情報がもたらされます。

    すなわち酵素作用による細胞内情報物質の変化が神経細胞のイオンチャンネルの働きを変え、そしてイオンの流れが変化したことによる視神経の興奮の具合が大脳では光の波長を区別する、という仕組みなのです。

    光の情報は大脳皮質で色味が抽出、調合されて、私だけの世界に?
    あなたの赤と私の赤はまったく違うかも―――色を見るのは目ではなくて脳なのですから。

    <目は裸の脳>
    君の瞳は一万ボルト~このソングを聞いたとき脳が活性化しているのだ、と思ったものです。

    と申しますのは脊椎動物の網膜には図のように大脳につながる神経細胞が、すなわちむき出しの脳が手前表面にあるからです(図の右下)。

    近年、私たちの目はオゾン層の破壊やPC作業によって有害な光線(強い紫外線や青紫色光)を浴びる機会が極めて増大しています。

    いつも裸なのですから、過剰な電磁波エネルギーによる酸化ストレスを軽減すべく、栄養にも気を配って大切にしなければなりませんね。

    輝く瞳は輝いている脳でもあるのですから!!
      

  • Posted by 丸山 悦子  at 01:09Comments(2)脳神経生化学

    2011年06月12日

    たばこの煙

    <ニコチンが怖い理由>
    煙草はひとたびその味を覚えると、もう生涯、手放すことができなくなる、とか(私は吸ったことがないのでどうもリアルではありませんがーー)。

    しかしいくら快感の世界に浸りたくても弊害が多いので、ひとの前では吸えませんね。

    例えば受動喫煙による影響は特に小児・胎児には著しい害となります。そして日に一箱も吸う人と一緒に生活すると年間10回の胸部レントゲン(~mSv)を受けたと同じ、放射性鉛やポロニウム(図の上)の放射線を浴びるようです。

    もちろん本人には、たばこの葉由来のニコチンや放射性物質、そして添加成分が発ガン因子となるのみならず、口腔内では歯肉の血行不良、歯周病を誘引し、あげくは免疫不全や骨粗しょう症、脳萎縮と多くの疾患の危険因子となることが分かっています。

    ちなみに、日に20本吸うと年間300回の胸部X線と同じ内部被爆量となる、と報告されています(文献 )。

    ニコチンはコカイン、モルフィネとともに植物アルカロイドという麻薬で劇・毒物です。
    それらには耽溺性(強迫的な乱用と再発に推移していく精神的・身体的依存性)があるため止められなくなるのです。

    いったい、そのメカニズムはどのようなものでしょうか。

    <快感を増幅する神経伝達物質>

    肺から吸収されたニコチンが中脳腹側被蓋野ニューロンに存在するニコチン受容体(ニコチン性アセチルコリン受容体)や側坐核(図)などにある前シナプス膜のその受容体(図、中央)に結合すると神経細胞末端から、興奮性神経伝達物質であるドパミンが過剰放出します。
    すると満足感などの快感がおきるのです。

    そこは、中脳の腹側被蓋野から視床下部(辺縁系)の側坐核、さらに前頭葉にいたる、ドパミンなどを神経伝達物質としている神経細胞からなる、快感の脳内報酬神経系に位置するからです。

    したがって、やめられない、やめられない の元凶はその快感神経系のドーパミンという快楽物質のせいと解釈されます、がドパミンのレベルがどのようにこの神経回路内で調節を受けるのか詳細は未知です。

    このシステムの制御は神経細胞間の興奮伝達と神経細胞内の情報伝達のレベルで行われると考えられます。

    ドパミンD2受容体の高親和性型におけるレベルの増大がニコチンの高感受性に関与するという報告がされています(参考)。

    最近、脳切片において喫煙時のニコチン濃度を用いて実験をし、前シナプスでグルタミン酸の放出があることが見つかりました(参考)。

    依存性解除の治療法開発のために、グルタミン酸神経系などが関与する分子レベルの解明が待たれます。 

    <千変万化のニコチン受容体>
    数年に一度はおしゃべりを楽しむヘビースモーカーの友人がいます。

    ある時「ニコチンって頭が良くなるの?」と、ニコチンの害しか知らない私でしたが思わず尋ねてしまいました。

    というのは私には彼女の脳が、透きとおって見え、神経のシナプスが増えているというよりはゴミ・チリ類がなくなっているように感じたからでした。

    彼女は「頭は良くならないけどニコチンが皮膚に沈着してまっ茶色ョ!」と言って腕を捲って見せました。

    豈図らんや、やはりニコチンは認知力を高める、ようです。

    ニコチンのポジテイヴ効果として認知力の増大や神経疾患の治療への利用について報告がなされています(参考)。

    ニコチン受容体は種々のサブユニットからなるイオンチャネルで、脳内には多種類知られ、分布も広範囲です。それだけ機能も多様性が推察され、記憶学習をはじめとする様々な生理機能に密接に関わっていると考えられています。

    そう言えば一昨日の新聞に、煙草のニコチンが肥満を防ぐという研究結果が雑誌サイエンスに掲載された、とありました。視床下部の自律神経系に関与する神経細胞のニコチン受容体がニコチンで刺激されて食欲減退を導くのです(文献)。

    <脳内の指南はーー>
    前頭葉(脳の図)は、ヒトが人たる思考、判断に基づいた社会行動、創造性、意志の力を醸し出します。

    いっぽう、食欲、性欲のような本能的行動や快・不快、喜怒哀楽のような心の働きは大脳の中でも系統発生的に古い領域(図の海馬、扁桃体、側座核などの視床下部、脳幹周囲)が関与します。

    両者の連絡が密に保たれてこそ「自分」があることになりますね。

    達成や成功の積み重ねが快感の回路をいっそう磨くとも言われます。

    自己努力によって視床下部から前頭葉への経路を賦活し、煙草のニコチンに依らずに、精神の座とも言うべき大脳を充分に輝かせたいものです。。。
      

  • Posted by 丸山 悦子  at 20:39Comments(3)脳神経生化学

    2011年05月11日

    運動すれば頭がよくなる!

    <BDNF(脳由来神経栄養因子)は脳細胞を元気にする>
    平均寿命が95、100歳も目前ですね。

    何と言っても脳の健康が重要課題です。

    なぜなら私達の脳は、歳をとるほどに神経細胞が死んでいき、萎縮し、認知力の低下が進むからです。

    最近、エアロビクスによって海馬の萎縮が抑えられることが報告されました(参考)。
    運動すれば記憶や学習の脳の要である海馬の機能が向上することがわかったのです。
    そして血液中でBDNFが上昇することも見出されました。

    BDNFは神経細胞で合成され、分泌されます。
    そして他の神経細胞シナプスの受容体に結合して、その細胞の電位をあげで活性化するのみならず、神経細胞の生存に重要な遺伝子を発現させるべくスイッチとなります。

    すなわちBDNFは神経細胞の成長と分化そして神経ネットワークの維持という、まさに神経細胞のサバイバル因子として働きます。

    マウスの実験においても運動をさせると海馬でBDNFが増大すると報告されました。

    神経のシナプスは多いほど脳は良く働きます。
    有酸素運動によって新しい神経細胞が生み出されそしてまた、複雑な動きの運動をさせると神経シナプス間の結びつきが緻密になったのでした。

    ですから運動をすれば、血管や筋肉から種々の細胞成長因子が放出されて心肺が強くなるのみならず(本ブログ)、脳ではBDNFの合成が高まり記憶力、頭の回転、果ては認知症が防御されるというわけです。

    興味深い知見として、BDNFのSNP(一塩基多型)(本ブログSNPの説明)と精神疾患の関連があります。
    蛋白質に翻訳されたばかりのBDNFの配列において、66番目のヴァリンがメチオニンに変異するとBDNF分泌能が低下して神経機能が脆弱化する、ということが報告されました。

    そこで種々の神経疾患でもこの変異多型が背景にあるのではないかと調べられました。
    うつ病や多遺伝子疾患と考えられるパーキンソン病やアルツハイマー病、肥満症などでも病態の背景要因であることが報告されています。

    私のBDNF遺伝子のSNPはどうかも気になってきます。

    日本人のBDNFのVal66Metは白人に比べ高く人口比30%くらいと、高比率のようです。

    ところで最近、このSNP以外のリスク要因が見つかりました。

    <自殺とBDNF遺伝子>
    自殺者のBDNF遺伝子を調べたところ、ウエルニッケ野(本ブログの脳の図)では、BDNF遺伝子配列上流のプロモーター領域(本ブログ、遺伝子発現の模式図)のDNAがメチル化という修飾がなされていることが見つかったのです(参考)。

    今後BDNFについては、SNPであるVal66Metなどの多型解析に加えて、どのような精神状態や環境でDNAのメチル化が起こるのか後天的修飾の機作解明などが重要となりそうです。

    このプロモーターDNAの修飾があると、BDNF遺伝子自体に変異はなくとも遺伝子が読み取られる時に転写の効率が落ち、BDNF蛋白質が充分産生されず、そのため神経機能が充分働けない、と考えられます。

    <proBDNF(前躯体)とBDNF(成熟型)>
    うつ状態を回避することは自殺者を減らすためにも早急な社会の課題です。

    BDNF蛋白質の血中でのレベルは、Val66Metのうつ病患者で低下しており、抗うつ剤や運動などの治療によって上昇することが報告されました。
    しかしこの時のBDNFは成熟型であって前躯体から切断されています。従って66番目のアミノ酸はもはや無いのです(図)。
    そこで、その塩基変異は問わずとも、BDNFのレベル変化がうつ症状やストレス症状改善に指標となるのではないか、とメンタルヘルスの観点からの研究が進められています。

    また、うつ病でBDNFが減少する時は切断される前の前躯体proBDNFが増大し、脳や血中の両者のバランスの変化が病態を左右するのではないか、またそれぞれの分子が神経細胞において相反する役割があるのではないか、との考えの研究もなされました(参考)。

    うつ状態でのBDNFレベル低下の機作は、蛋白質分解酵素によって切断されて機能するBDNF(数ng/ml血液)と更に低レベルと予想されるその前躯体や切り離された断片(図、左)のそれぞれが検出、測定可能となって、さらにこれらの因子と結合して情報を繰る分子が明らかになれば解明されそうです。

    <痴呆にならない確率を上げるには>
    将来はお金を掛ければ、何十万個?という自分だけの遺伝子上の個性を調べることが出来、そしてBDNFのVal66Metに加えて、あらゆるDNA変異のリスクファクター情報が手に入れられそうです。

    ところであなたの健康を管理する意志はどこからくるのでしょう。

    やはりそれは、脳の神経シナプス可塑性!となりましょうか。

    それなら自らの努力でBDNFを産生させ、BDNFを肥料?としてシナプスの豊富な神経細胞ネットワークを育てあげること、ということに尽きそうですね。

    今日もしっかり空気を吸って、一万歩です~~
      

  • Posted by 丸山 悦子  at 23:54Comments(0)脳神経生化学

    2011年03月11日

    今年は檸檬が鈴なりです!!

    <桃、クリ3年、レモン7年?>
    昨年に、屋根に届くほど育った檸檬の木に初めて、一個の実がつきました。

    それが何と、今年、数え切れないほどに!
    25個でした。。。

    猛暑のおかげでしょうか。そういえば黒アゲハがいつもひらひらしていました。

    グリーンとのツートーンカラーのお洒落なオブジェも、いつのまにやらレモン色に変わりジューシーさが漂うようです。

    種以外は全て、サラダに紅茶にケーキにと、初恋の香り?を満喫しています。

    <ビタミンCの効用は>
    レモンといえばビタミンC。

    ビタミンCといえばご存知、その抗酸化作用による美白効果がまず挙げられます。

    ビタミンCは抗壊血病因子として発見されたビタミンで、化学名はL-アスコルビン酸です。

    なぜか、ヒトと猿、guinea pig(モルモット)はこのビタミンを自分では合成できません。
    ですから食べ物からコンスタントに取らなければなりません。

    大航海時代には、船乗り達は歯茎や皮膚などから出血する、壊血病にならないようにと柑橘類を船に積み込みました。

    なぜなら、アスコルビン酸の一つの働きとして、皮膚や血管のコラーゲン繊維の生合成の補酵素としての役割があるからです。

    もう一つ、脳内神経伝達物質であるドパミンからノルエピネフリンを合成する酵素反応でも補酵素として働きます(図)。
    従ってアスコルビン酸は脳内の神経伝達物質のレベルに大きく関与しているのです。

    アルツハイマー病患者の血中のアスコルビン酸レベルが低いという報告があります。ですからビタミンCを補えば、脳疾患の予防や治療が出来るのではないか、と研究が進められてきました。

    加齢やアルツハイマー病モデル動物に、ビタミンCを投与したところ記憶学習の能力が向上したのです(参考文献

    またビタミンC不足の母親からの子どもは、記憶・認識力など脳機能低下や神経細胞数の減少があることが報告されています(参考)。ダイエットは本人の健康のみならずに、よく注意しないといけないかもーー

    うつ病などの神経疾患では上記の神経伝達物質の異常が考えられますので、ビタミンCの効果が期待できるかもしれません。

    <脳疲労と生体内の過酸化反応>
    脳機能にビタミンCが重要そうです。

    私は、うつ病のみならず、慢性疲労症候群という、多種なストレスによって生活活動が極端に低下する病気で苦しんでいる方々のことにも思いを馳せます。

    ストレスを受けると活性酸素が沢山出ます。酸化が進みすぎ、防御し切れなければ脳の神経細胞は死にます。免疫系や内分泌系も衰えます。

    もちろん通常の生体内での物質代謝でも活性酸素は生じています。
    しかし炎症の際やガン、組織における障害では異常に発生するのです。

    過剰な活性酸素を早く潰してしまわないと、細胞構成成分である脂質や酵素などのタンパク質、DNAなどを無差別に攻撃して種々の障害を起こしてしまいます。

    血管が活性酸素で損傷すると白血球が集まり、血管が狭くなり血栓ができます。血液が汚れ、動脈硬化も進んでいきます。

    多くの動物は高ストレスに対抗して自分の体内でビタミンCの合成を盛んに行います。

    しかしながら私達は進化の過程で、ビタミンCの合成酵素であるL-グロノラクトンオキシダーゼ遺伝子が変異してしまったのです。

    老化と疾患の一途です。どうしましょう?

    脳内に発生した活性酸素を除去できるのが抗酸化作用のあるビタミンCですね。

    ビタミンCの特徴はその強い還元作用にあります。

    アスコルビン酸は容易に酸化されてデヒドロアスコルビン酸(図)になり、その時、活性酸素を退治してくれます。

    ですから活性酸素の産生が激しいストレスや喫煙ではビタミンCは多量に消費されています。ビタミンCが不足していては困ります。

    ほんとうに、健康か病気になってしまうかを左右するのは、食べ物に含まれる栄養素を必要なだけバランスよく摂取できているかどうかによるわけですね。

    ビタミンCは新鮮な野菜,果物,芋類,緑茶に多く含まれ,特に柑橘類に豊富です。

    ちなみにその100g当たりのビタミンCの含有量は、レモン100mg、キウイ69mg、いちご62mg、グレープフルーツ36mg、赤ピーマン170mg、ブロッコリー120mg、じゃがいも35mgとなっています。

    私は一日500mgを目指します。なおビタミンCは水に溶けやすく熱に弱いので調理に工夫が必要ですね。

    <ビタミンCはオールマイテイ!!>
    これからは認知症に、うつ病にビタミンCとなるでしょうか。

    風邪にビタミンC、ガンにもビタミンC、は古くから言われてきました。

    どういうわけか、日本は胃がんの最多発国です。

    昨秋の、ノーベル賞に輝いたマーシャル博士の来日講演でのことです。

    博士はピロリ菌が胃がんの原因であるなんて誰も信じてくれなかったが、反論の中でも孤独に研究を頑張りとおしたと話されました。
    その中でちょろっと、胃の中の発ガン物質であるニトロソアミンの生成をビタミンCが抑制することを述べられ、未知なる食物が未知なる予防効果を持つかもしれない、とほのめかされました。

    研究題材は尽きませんね~

    温故知新のビタミンCです。
    最近、時代の流れを感じる研究がありました(文献)。

      

  • Posted by 丸山 悦子  at 00:18Comments(0)脳神経生化学

    2011年01月22日

    やっぱり、合点がいかぬ、猫の脳!!

    <脳内シミュレーション>
    暑いの、寒いの、ーーそんな私達をものともせず、自然は時を刻み続けます。

    知らぬ間に大きく、お隣りに伸びてしまった枝を、私は一生懸命に切っていました。

    後の塀の上を歩いていた猫が、直交しているこちらの塀に移りました。

    トコトコ、と歩いてきて、猫の顔と私の顔は、近づきました。すると、「何しているの?」と私の顔をみて尋ねるではありませんか。

    私は「枝を下ろしているの」と答えました。猫は「ふうーん」と言って納得顔をすると、そこで、塀を降りて隣家の裏庭をスタスタと歩いていきました。

    ハタ、と手を休めて考えました。猫は声を出さないでしゃべったのに、なぜ、人間の私が声を出して、返事をするワケ???

    それにしてもおかしいです。何してんの、なんて聞くまでもなく、見れば私が枝を切っていることぐらい誰でも分かるのにーー

    高等動物は、脳にミラーニューロンがあり、他人の行動をあたかも自分の行動のように感じ取ることが出来ます。

    最初は猿の脳の電気信号と行動学の研究において、他者の行動を見て自分が行動したかのように発火する神経細胞があることが見つかり、物まね細胞(ミラーニューロン)と名付けられました。

    今回も脳の中の鏡、ミラーニューロン(9月8日記)の成せる業なのでしょうか?

    しかしどう考えても、私の脳に映るべき言葉は「邪魔だわ、私、あっちに行きたいの!」となるはずです。ホントに、猫の脳って、変ですね。

    エエッ、わたしのミラーにヒビ割れが??

    <模倣と共感>
    私達、人類の脳はミラーニューロンの発火に伴って同時に、大脳辺縁系の感情を司る脳中枢(扁桃体、8月21日ブログの図中)に信号が送られます。これが、他人の苦しみや心の痛みを感じて一緒に泣くしくみと考えられています。共感です。

    模倣に長けた人は感情の認識に優れているといわれます。ですから、他人に共感する力にも恵まれていることになりますね。

    物まねするほど、頭のよい子になる、と言われるのもさもありなんです。

    子どもが大人になっていく教育のプロセスにおいて、ミラーニューロンシステムは、社会的存在になる、という最も重要な役を果たすことになります。

    自閉症は他者と共感出来ない疾患です。ミラーニューロンにおいて、電気生理学的にまた機能的MRIで、機能や構造の異常が報告されています(参考文献)。しかし、その分子機構は未知のため薬の開発は進みません。

    <ヒトはどこがどう特別なの?>
    私は、脳の凄い所は、ガリレオの如く、誰も考えもしなかった可能性を創造・考察出来ることだ、と思います。それは、積み重ねによって出来た、密で確固とした神経配線の為せる業でしょうか。

    文明社会を促進したのは言葉による熟考です。言葉が繰れなければ高度な思考も互いのコミュニケーションも成り立ちません。

    言語中枢としては、比喩やことわざなど抽象的な言葉の意味を理解する「ウエルニッケ野」、読み書きそろばんの「角回」、そして行動と結びついた運動言語を司る大脳左半球の前頭葉にある「ブローカ野」があります(図)。これらがうまく同時に働いて言語機能が繰れます。どれも他の動物には未発達の場所です。

    他者の意図を理解するということは社会性の基礎です。

    相手のこころを察するという社会性の能力は「前部帯状回」(図)が司ります。極めてヒト独自です。

    うつ病や統合失調症でここの異常の報告があります。

    上記の全ての部位がうまく連携して統制のとれた脳に育つためには、豊かな社会背景が必須なのです。

    昨今、脳は、生物学的機能に加えて社会的存在として、教育的見地で論じられています。

    <鏡よ・鏡よ・鏡さ~ん>
    知覚と行動を連携させ、さらに言葉にも反応するミラーニューロンシステムは、図のブローカ野の近くにあり、ヒトの成長過程で社会文化的並びに情動的な影響も受けながら統合されていく、と考えられています。

    ミラーニューロンシステムは親のやることを、すべて自動的に吸収するメカニズムともいえます。本人が過去に無意識に吸収・体験した出来事が、知らず知らずのうちに“再現・復元”されてしまう、まさに‘子は親の鏡’、オー怖いッ!

    そしてどうも、甘やかされて育ち、自分で解決して乗り越えたことがない脳は配線のし直しが難しいようーーー

    とにかく、苦も無く、自動的に、無意識のうちに行われてしまう脳内ミラーリングです。

    かくしてヒトは、言葉によらないメッセージさえも迅速かつ正確な同調によって、別の人間を共感・伝染させることが出来ます。社会をうまく維持するために獲得した能力なのでしょう。

    ですから、出会った良き師や友は大切にして、‘朱に交われば赤くなる’の如く、しっかりと自らを感染脳にしたいものです(参考文献)。

    ‘酒に交わり過ぎて萎縮脳・認知症’?これには気をつけましょう~~~
      

  • Posted by 丸山 悦子  at 00:05Comments(0)脳神経生化学

    2011年01月06日

    年金より重要なものは‘貯筋’です。。。

    新年明けましておめでとうございます。
    私は、今年も一日一万歩を目指します。

    <ふくらはぎは第二の心臓>
    ヒトは重力に逆らって、血液を脳へ運ぶことが出来ます。
    足の筋肉が血液を心臓まで押し上げるポンプの役割をするのです。

    ですから長時間座って過ごす人は心臓に負担がかかり死亡リスクが高いといわれています。

    エコノミークラス症候群も、座ったままで血液が下半身に停留したことによる血液・血管障害です。

    毎日もむと寿命が伸びるーーー、そんなふくらはぎ健康法のキャッチフレーズは、足の筋肉をほぐして血液・リンパなどの循環を良くすれば全身に酸素や栄養が行き渡り、そして更にーーー。

    実は私達は、年令を重ねるにつれホルモンが減少し、そのために筋細胞の減少や筋繊維の萎縮がおこります。それで筋肉による押し上げポンプ力は20-30歳代をピークに、減衰してしまいます。

    足の筋肉量の低下は他に比べて著しく、60歳代では20歳代より40%も落ちるとも言われます。

    まさに、’老化は足から’の言葉どおりなのです。

    高齢者の足の筋力減少はQOLの低下となってしまいます。
    ではどうしたら、筋力低下が防げるのでしょうか。

    答えは、運動して脳から成長ホルモンを出してあげることです。
    成長ホルモンは他組織の細胞増殖因子の放出を促進するのです。

    <運動は如何にアンチエイジングとなるのか>
    運動によって筋肉が疲労し損傷しますと、乳酸や細胞内蛋白質が漏出します。
    そして筋細胞を再生すべくIGF-I(インスリン様成長因子-I)などの種々の成長因子が放出され筋は再生・肥大します。
    さらに、異物の掃除屋である免疫系細胞であるマクロファージも遊走してきて、免疫系を活性化するサイトカインという因子などが出されます(図)。

    これらの分子は神経インパルスや血液を通して脳にもすぐさま情報を与えます(図の右上)。脳はその結果、骨形成や新陳代謝、脂肪燃焼促進、コラーゲン生成などに関与して、生体の恒常性維持機能のある、また細胞の分裂・増殖を促進する成長ホルモンを脳下垂体から分泌するのです。

    この成長ホルモンは、寝る子は育つ、と言われる様に本来、睡眠中に分泌されるホルモンで、若い時に沢山出るホルモンです。

    このように私達は、筋トレによって成長ホルモンの分泌を増大させ、休息と訓練の継続によって、漸次、筋力や体調のレベルアップが図れるのです(参考文献)。

    <急いては、事をし損じる>
    筋肉の過負荷(疲労と筋繊維損傷)によって分泌された成長ホルモンは、複雑な経路を作りながら、筋肉の老化抑制のみならず生体の複雑なネットワークをより強固にします。

    ところが海外のセレブ?は成長ホルモンによる若返りの効果を急ぐ余り、何と大枚をはたいて化学合成ホルモンを注射しているそうですね。

    美肌作りに専心の女性も、手抜きに走ると大変なことがーーー腫瘍やガンのリスクが報告されています(文献参照)。

    <足は足でもーー >  
    鍛えてこその足腰であることが分かります。

    お足といえば宮中の女官が使った貨幣の隠語ですね。

    私は、働いて得たお金は人類のために生かしたい、と切に思う今日この頃です。

    一万円あると、途上国の学校へ行けない子が一年間中学校で学べます。

    バブルが崩壊した時は一万円があっという間に五千円に低落するものもありました。

    信用できる政治・政策のもとで、こちらのお足も血行不良を改善して、うまく動かして元気にしましょう。

      

  • Posted by 丸山 悦子  at 23:18Comments(6)脳神経生化学

    2010年12月22日

    自由や幸福は天空に有り?

    <霙降る大寒の夜に>
    先日、ドイツ帰りの起業塾仲間がオープンしたカフェ、Die Drei Falkenのオカメインコが一瞬の隙に大空に飛んでいってしまった、という店主の悲しみを知りました。
    クリスマス・コンサートも予定され盛り上がっていた矢先のことです。
    三鷹の光や磁気を思い出して伝書バトのように帰巣するよう祈っています。

    私は、多摩川沿いに住んでいた20年以上前の出来事を思い出しました。

    雪混じりの極寒の夜、改札を出ると、足元に一羽のコバトのような鳥がヨチヨチ出てきたのです。傍らのキオスクのおばさんに「どうしたのでしょう」と聞くと、「先ほど改札を出てきたのよ、持っていくなら、はい」といって段ボール箱を手渡してくれました。

    足がうまく動かないのです。
    目を閉じて私の左胸に顔を埋めてじっとしていました。

    <身なりは王女様と乞食ほどにも違いーー>
    「小さい鳩を拾いましたーー、探している方は?」と交番に、そして駅には人相書き?も貼りました。
    おまわりさんは、伝書鳩を飼っている家に行ってみるよう指示しました。

    私は伝書バトを見て仰天。神社のハトしか知らないので、利口そうな大きなクリクリ目、ガッチリした体躯、太い足を見て、伝書バトはハトにあらず?!と。

    「この子は今、仙台から飲まず食わずで飛び続けて帰ったところです」と自慢げな紹介でした。
    うちの鳩子ちゃんのことは何も言えずに帰りました。

    研究室の動物学者によれば鳩子ちゃんは「川にいる野生の土鳩で、つり糸に足を絡めて痛めたのだろう」とのことでした。

    ベランダで何度「鳩子ちゃん、外を見てごらん」と言ったことでしょう。しかし、しがみついたまま後ろを向いてしまうのです。

    <啓蟄の日、鳥になった鳩子ちゃん>
    三月に入った休日の朝、まだ布団の中の私の上を何と、天井スレスレに大きく、春の陽射しを浴びて旋回するものがーー。
    「わあー、トリみたいだー」思わず叫んでしまいました。
    はじめて鳩子ちゃんが飛んだのです。

    しかしながら一向に我が家が一番なのでした。

    キッチンでは私の腕先にいつも乗っているので包丁が重くてたまりません。
    べランダでの物干しも右腕に乗っているので作業が大変です。
    眼下の木々ではトリ達が鳩子ちゃんを見つけて嬉しそうに何か言っているのですが気にもとめません。
    いつも一緒の食事です。たまに隣室に居て出遅れて、私達が先に食べ始めているとメチャ怒るのでした。

    次々と思い出されてしまいますーーー

    <6階から転落!!>
    夏も近づいたある日、ベランダから真っ逆様に落ちてしまった、のです!
    ベランダの鉄柵は、痛めた指が不安定なのです。

    下の芝生に落ちて、きょろきょろ。
    上から「鳩子ちゃーん」と呼びました、が、その顔は、もはや、甘えん坊の鳩子ちゃんではありません。
    しばらく、眼下を行ったり、来たり、方向を確かめて飛んでいました。遂に、カッコよく多摩川の方へ高く飛んでいきました。

    夫が「何でお前の方を振り返らないんだよー」とぼそり。
    一歩世に出れば、七人の敵だらけ~私のことなんか!ですョね。

    その後、尋ね人欄に出したり、いつでも帰れるようにと窓を開けて出勤したり、と悲しい日々でした。

    今頃は、また誰かを幸せにーー、鳩子ちゃん。。。

    <トリのナビゲーション・システム>
    鳥の帰巣本能を人類は有効に使ってきました。
    鳩はあの小さな体で、僻地医療において血清や薬品等の運び手として、また明治時代の新聞社では報道の伝達屋として、先の第二次大戦でさえ沢山の軍用鳩が役立ちました。
    今の携帯電話の普及からは信じられません。

    渡り鳥のメカニズムは、星座の認識によるとか、地磁気とか、ニオイとか、いろいろ言われてきました。生物が持つ?テレパシー通信の可能性までもーー。

    多くの研究者が鳥を盲にしたり、磁気を乱したりと種々の実験を行いましたが解明には至りませんでした。

    脳やクチバシに見いだされた鉄を含む磁性蛋白質がその磁場依存性の配向によって位置を認識するのではないか、という報告もありました。

    環境電磁波の影響と思われる鳥のアクシデントからも、磁場は重要と思われます。しかし、帰巣本能の解明のみならず電磁波の生物への影響やヒトへの安全性については検証が今なお困難です。

    上図のように光や地磁気の受容に関する分子機構が提唱されました。

    そこでは私達の脳にあって24時間の体内時計でもある、クリプトクローム(青色光受容物質)が受容の候補分子として挙げられています(文献参考)。

    網膜において、フラビンからクリプトクロームへの電子移動に際し地磁気が影響して、この蛋白質の状態が変わるため、視覚神経細胞の信号が変化するというものです。脳ではその情報を感知・処理して既に学習した所へ正しく飛ぶ、というわけでしょう。

    クリプトクロムもまた、前回のブログで紹介した電子移動によってラジカル化するフラビン色素、を補酵素として使う蛋白質です。

    とにかく光や磁場に依存する、効果器における化学反応と脳への信号の変化の詳細な研究が重要です。


    虚空に柿の実ひとつ。
    この柿は絶品です。それがひいき目でない証拠に、私はいろいろなお店の柿も同時に食べ比べます。








      

  • Posted by 丸山 悦子  at 23:38Comments(1)脳神経生化学

    2010年11月28日

    人工生命、シンシアの将来は?

    <執念の賜物>
    ベンター博士はベンチャーを立ち上げて15年、この春、ベンター研究所で合成細胞の創生に成功しました(文献参照)。人類史上に残る、偉大な功績とも伝えられました。

    彼らは、真生細菌から遺伝子(DNA)を抜き、合成したDNAを入れて、自ら複製、増殖する人工の生命体、愛称・シンシアを創ったのです。

    短い合成遺伝子の導入なら、実験室で細菌の形質転換のために使われる通常のテクニックです、が、彼等は桁違いに長い、100万塩基対を入れました。その遺伝子発現のために、一個の配列ミスも許さない緻密な研究を行い、ゲノムエンジニアリングの成功を導いたのです。

    さあ、任意の遺伝子を持った細菌が作れるようになったぞ~~。
    テロリストを喜ばせてはいけません!

    ベンターの、細菌を用いた、萌芽的とも見える合成生命の研究は、ヒトの命も合成することになるのでしょうか?
    ちなみにヒトのゲノムは30億塩基対(非遺伝子部分が半分以上)ですから、人工人間は難しそうですね。合成核酸から意味あるゲノムへの道はまだまだ遠いーーー。
    しかし、研究者の執念は尋常ではないところがありますから、ブレークスルーが有るかもしれません。

    どうしましょう?


    補足:
    生物は、細胞内に核が有るか無いかによって、真核生物と原核生物に分けられます(図参照)。
    私がヒトの歴史で記載(9/29記)したのは、全て真核生物です。その左隅に菌界とあるのは、紛らわしいのですが、細菌(バクテリア)ではなく、きのこやカビの類で、核の構造を持っています。

    細菌がこの菌や植物、動物とは異なっている点は、遺伝物質のDNAを囲む構造が無く、細胞質の中でむき出しであること、また細胞膜の外側に細胞壁を持つことなどです(上図を参照)。

    なおウイルスに関しては、脳が障害されるポリオウイルスとか日本脳炎ウイルスなどがよく知られ、恐い生物と思いがちです。が、寄生しないと増殖出来ないので生物とみなされません。

    <科学にはさまざまなギャップ>
    生命を作る、そこに描く方法は私のみならず他の方も、ベンターのように細菌に移植するのではなく、全くすべて人工の、即ちリポゾームのような人工脂質二重層膜に合成遺伝子と幾つかの酵素蛋白質を入れる、ということかもしれません。
    でも細胞質が最初に必要だったのですね。

    話しは跳びますが、先に、試験管ベービーの技術はノーベル賞になりました。惜しいことに?インキュベーターの中からオギャーとはなりません。細胞が分裂・増殖して分化を遂げて個体を維持するまでには、伺い知れないほどの高いハードルがあるのでしょう。

    私は学生時代に、「緑の葉を皮膚に埋め込んで光合成すれば、ご飯を食べないで済む」と言ったら「錬金術師みたいだね」と笑われたものです。が今や、錬金術は、核化学的には可能であることが分かっています。
    「不可能なことは無い」と言ったナポレオンも思い出されます。

    <宇宙と生命の起源>
    私は9月29日のブログにおいて、人類の歴史の図に、137億年前に宇宙の誕生を入れました。
    その前は何なのでしょう。
    無から有が生じたのでしょうか。

    現代量子化学が教える所では、無というものは無い、バーンと新星爆発で素粒子が出来、だんだん重い元素が作られてきた、と説明するようです。そのような無を認識するには、まだ私達の脳は訓練が足りないように思われます。

    進化論を受け入れるなら、無生命から出現したという生命の起源を考えざるを得ません。
    宇宙の起源のイメージ化に比べれば、既存分子から始める、実験化学を基盤とした生命の起源は、はるかに安心して、その変遷が納得出来ます。生命が、合成核酸から創れたのですから。
    そしてなぜか、私はヒトに至るまでの生物の長い歴史を、時空を越えて優しく受け入れられるのです。

    <ヒトとはーー>
    地球環境をchange出来るのがヒト、いえ、してしまった、のがヒトです。
    使い過ぎてしまった地球資源や破壊してしまった自然という、ここ数百年の暴走を?私達は反省するようになり、世界中が一つになって考えよう、と動き始めました。

    これまで、テクノロジーを発展させて、豊かな生活を得ました。

    遺伝子工学による遺伝子組み換えによって、作物は生産効率をあげられます。そして、原油エネルギーの代替としてバイオエタノールの作成も可能としました。

    人類は、細菌やウイルスとの闘いの歴史でもありました。
    しかし今や、例えば、感染症の治療では、遺伝子組み換えの蚊によって、沢山のヒトが命を落とす、蚊が媒介するマラリアを絶滅することが出来そうです(参考文献)。

    しかしこれらのメリットには、地球の自然を守ること、生態系を保存しよう、という叫びとは、折り合わないことが多々あります。

    進歩が孕む功罪をどのようにバランスを取るか、私は、現代人の責任はあまりにも重いと思っています。
      

  • Posted by 丸山 悦子  at 00:38Comments(6)脳神経生化学

    2010年10月09日

    彼のニオイセンサーは、100万倍!

    <ぬいぐるみ?それとも、ホンモノ?>
    2kmほど遠くのスーパーまで、ウォーキングを兼ねて買い物に、出かけました。

    住宅街でふと首を振ると、庭越しに、ガラス戸の向こうに、大きなこげ茶色のぬいぐるみが??

    もしや、本当のセントバーナード? 私は、アッカンベー、ベロベロバー、をしました。が、ビクともしません。
    ぬいぐるみ、かぁーーーいや、大き過ぎる?

    今一度、確信を得たくて、傍の電信柱に隠れて、ぱっと出てみました。

    私は見逃しませんでした、垂れ目の中の大きな眼球が、チョロッと一瞬、動いたのを。

    あんな大きな犬が、座れる位の広い家に住みたいな、と思いながら、帰りました。

    <誰が決めるの?散歩コース >
    それから、一週間ほどたった頃、私は家を出たとたん、固唾を飲みました。

    何と、前方に、いつかのセントバーナードが、二人の調教師を連れて??? のっし、のっし、とこちらに来ます。

    100kgの巨体に、飛び掛かられたら、ひとたまりもありません。

    踝を返そうか、躊躇しました。が、私は、前方をしっかりと見て、他人を装いました。

    それでも、通り過ぎる時、彼の顔を横目で、見てみました。

    何と、私を、あの優しい瞳が、見ていたのです。

    しばらく歩いて、そっと振り返ってみますと、ふっさふっさと、幸せそうに歩いていきました。

    どうやってあんな遠くから、この路地まで来たのでしょうか。

    私達は、何ごとも、納得したい、似た者同士なのですね。

    彼は、救助の仕事がなくても、ガラス越しに道行く人を見ながら、脳の活性化のために、自己啓発をしていた、のだと思います。

    私達も、健康のセルフチェックには、余念無きよう、日々を送りたいものです。

    <嗅覚の仕組み>
    セントバーナードは、その高度な嗅覚に加え、それを記憶する能力が高いので、特にスイスの雪山で救助犬として、役立ってきました。

    犬の嗅覚の鋭敏さは、警察犬のみならず、最近ではガンの発見のための診察犬として、訓練がなされています。

    ガンだけではありません。疾病では、細胞や組織の代謝様式が異常となりますので、その物質の変化を、犬はニオイセンサーでキャッチ出来るはずなのです。これから、期待される新分野かもしれません。

    空気で運ばれるニオイ分子は、鼻孔から鼻腔に入って、粘膜にトラップされます。そして、嗅覚細胞の腺毛受容体に結合して刺激すると、神経線維が電気信号を発生します。

    図において、ニオイの成分は、鼻孔から鼻腔の嗅上皮の粘膜 → 嗅腺毛の受容体 → 嗅覚細胞の興奮 → 電気的インパルス → 嗅神経線維 → 嗅球  → 大脳 へと情報が伝わります。

    五感の中でも、特に動物の嗅覚は、餌取り、縄張り、交尾、と生存の中枢です。

    この複雑な情報処理のしくみを明らかにすることは、解析が難しい、高次脳機能の研究に必須です。

    良い香りは、大脳辺縁系に働きかけ、楽しく心地よい記憶を引き出します。そして、私達の自律神経は整えられ、リラックスします(図の点線)。

    では、嫌いなニオイでは、どうでしょう。嗅覚情報と記憶・学習、との関連について、最近、面白い論文が出ています(文献参照)

      

  • Posted by 丸山 悦子  at 20:39Comments(7)脳神経生化学

    2010年09月21日

    秋は和紙にクルまれて---

    <尺八の「枯葉」で迎えた秋>
    先日、尺八のライブを聞き、私の脳はもうすっかり、秋モードになりました。

    三味線と言えばお座敷、尺八といえば虚無僧、そんな程度でした。

    目の前に、背までの長い髪の楚々とした方が、クラシックなピアノ椅子に座って、スッと尺八を口に。

    脳の中の旋律を追うかのように、かすかに開けた目がわずかに動く、指がすすっと、5つの穴の上を泳ぐ。
    それは、さながら、かろやかなスケッチ絵、でした。

    ビートルズの曲に続いて、シング・シング・シング、アメリカン・パトロールそしてシャンソンの枯葉。

    尺八の楽譜には無いものばかりです。

    その音の広がり方は、和紙で優しく、脳が包まれていく、かのようでした。

    <ヒーリングのためには>
    何事も思うようにはいかないストレス社会、ストレス解消できる趣味をもつことはヒーリング法の一つです。
    すでに、リラックス系の音楽を聴く、軽い運動やストレッチをする、アロマなどの「癒し」やお香を焚く、ツボを押す、これらは現代人の自律神経系の養生法として広まっています。
                 
    表に、自律神経系(交感神経系と副交感神経系)がどのように身体で働いているか、をまとめてみました。
    いらいら、カッカッ、ブスブス、は自律神経系が交感神経系の方に傾きます。

    その時、血中に悪さをする活性酸素が増え、その結果、免疫力を発揮するリンパ球の活性や数が抑制されます。

    その効力の減少は、感染をおこしやすく、またガンを発生しやすくさせてしまうのです。

    夏の冷房による体の不調は、楽しいことをして、身体を副交感神経優位へと導いて、早めに回復させたいですね。

    <尺八の妙味>
    現代は、軒先で尺八を吹く虚無僧を見かけることはありません、が幼い時の記憶はあります。

    何を想うて、吹いているのかな、とーー、幼な心にも、なぜか、虚無僧の出で立ち、風貌に、普通の人にはない超越を感じたものです。

    今では、あの虚無僧の品格?は、尺八の音色がもたらす内面の平らかさ、すなわち、「副交感神経系の優位」に有り、と勝手に思っています。

    もう、小さな秋がそっと近づいてきました。
      

  • Posted by 丸山 悦子  at 07:27Comments(7)脳神経生化学

    2010年09月14日

    四十而不惑、今は、アラフォー而不調

    <こころと体の変化点>
    私は若い時、論語の中の、四十にして惑わず(四十而不惑)、五十にして天命を知る(五十而知天命)のところに憧れました。

    「あなたぐらいョ、歳をとりたいなんて思っているのは」と、言われたものです。

    ところがどうも現実は、違っていました。

    かなりの方が体調の変化に戸惑っている、ことが分かりました。

    孔子は、哲学に一心で、身体の変調など気にならなかったのでしょうか。

    いいえ、古来よりヒトの生物学的適応力は変わっていませんから、きっと、現代の大量消費、大量生産の社会構造が、精神的にまた肉体的に、負荷となっているに違いありません。

    <天下の分かれ目は40歳>
    男女の性差は、生後早期に、脳が、自らの生殖器で産生する性ホルモンに曝されることによって、生じるのです。脳神経細胞の情報伝達や神経ネットワークは、性ホルモンによって大きな影響を受けます。

    図はヒトが40歳を境に、性ホルモンのレべルが著しく低下することを示しています。

    脳の視床下部(8月21日、脳の図)が性ホルモンのレベルを調節します。

    ところが女性ホルモンを出す卵巣の機能は、加齢によって低下しますので、視床下部はそのホルモンを出すよう指令を出し続けます。

    やがて、頑張りすぎて不調となった視床下部では、そこはまた自律神経系(交感神経系と副交感神経系)の中枢でもありますので、そちらの機能も乱れてしまうのです。

    女性ホルモンのレベルの変動は激しいので、ひとによってバランスの崩れ方も異なり、更年期障害は千差万別の症状となります。

    しかし、より早い身体的、精神的なケアによって、かなり緩和される、とのことです。

    <ホルモンとホルモンの凌ぎ合い> 
    生体はその状態を一定に保つべく、ホルモンレベルはフィードバック制御されています。

    体内ホルモンが正常であれば、心身ともに快適な生活が送れます。

    不規則な生活、時間に追われた生活では、気温や明るさに応じて分泌が変動するホルモン産生が乱れ、また副腎からはストレスホルモンが過剰に分泌され、脳機能や免疫機能の働きが損なわれます。

    現代人はとにかく日頃に、自分でしっかりと健康管理を行い、ホルモンを放るもの、にしないことが大切ですね。

    <性ホルモンと脳機能そして生物の存続について>
    各ホルモンは、ターゲットとする組織の細胞にある受容体蛋白質に結合して、外界の情報を細胞内に伝え、そこに必要な蛋白質の合成スイッチをオンにします。

    性ホルモン受容体は、神経細胞のシナプスの膜上にもあって、記憶などのヒトの高次機能に影響します。 

    怖いことに、この受容体に結合してしまう、構造が類似した、外来性の物質が沢山あることがわかりました。

    外因性内分泌撹乱化学物質、いわゆる環境ホルモンと呼ばれる一連の化学物質(農薬、医薬品、ビニール、合成洗剤、防腐剤などから)で、代表的なものは、発がん性や生殖毒性が極めて強いPCBやダイオキシン類です。

    それらの垂れ流しは、ヒトの神経機能や内分泌系に悪影響するばかりでなく、動植物の生殖システムにも大きな影響を与えます。
    なぜなら、それらの分子は脂肪組織に蓄積しやすく、また分解されにくいため、食物連鎖によって濃縮されていくからです。

    今なお、この人為的汚染の処置は大きな生物学的社会課題です。

      

  • Posted by 丸山 悦子  at 19:56Comments(6)脳神経生化学

    2010年08月21日

    脳は斯くも不思議なものーー

    <記憶の再生>
    起業塾の最終講義で塾長は、「ヒトの脳には信じられない力があります」と、タクシーに乗っていて遭遇なさった正面衝突事故の際の脳内フラッシュバックについて話されました。

    ぶつかってくる先方の車を見ながら先生は、生命保険の金額、契約時のこと、家族の当面の生活のこと、かつて友達が酔っていたが故に怪我を免れた、自分も力を抜けば良いに違いない、など、数秒も無いのにありとあらゆる思考をなさったそうです。

    そして頭を強打して気絶ーーー。

    記憶の仕組みは学習と保持、再生(想起)の3機能よりなります。

    短期記憶は海馬(上図)で行われ、一夜漬け勉強の如く、神経細胞と神経細胞間の伝達効率(参照、情報伝達の仕組み)が数時間くらいだけ上昇継続します。

    長期記憶は海馬から情報が大脳皮質(上図)に移り、何十年も保持され、想起が可能となります。

    先生は生死の分かれ目で、大脳皮質にある過去の全情報から価値ある情報を求めて、サバイバルを賭けて瞬時に全記憶を繰られたに違いありません。そしてヒトのみが獲得した、前頭連合野の論理的思考という高次機能もアクセル全開にーー。

    先生の脳は病院で覚醒後、言葉というツールを使って、ことの顛末の後付けをなさったということでしょうか。何はともあれ、命拾いに頑張った先生の脳に感謝です!!

    良い仕事をするには、記憶領域に空きを作ってあげて、伝達の効率が上がるようにしてあげて、そしてせっかく促通性が出来た神経閉回路は反復して忘却しないようにしてあげる。

    結局は、ヒトには睡眠と栄養、運動という、良い生活習慣が大切なのですね。
    詳細はいずれに書かせて頂きます。  

  • Posted by 丸山 悦子  at 13:46Comments(3)脳神経生化学

    2010年07月29日

    うつ病増加

    <うつ病増加の新聞記事を読んで> 
    増加一途のうつ病、大きな社会問題です。この病気を放っておくと自殺に追い込まれます。リーマンショック以降の経済恐慌によって、自殺者は日に90人にまで上っているそうです。
    今後、特に中高年の自殺の増大が懸念されています。一家を支えている方を失うと悲惨です。罹患の早期発見を行って、この不幸を何とか喰い止めましょう。

    <うつ病のメカニズム>
    脳の細胞には分裂が出来るグリア細胞ともはや分裂増殖しない神経細胞があります。神経細胞はその神経軸索末端から化学伝達物質を放出して次の神経細胞に情報を伝えます。その情報は電気信号(図の→)となって軸索を伝わり、そしてその神経末端からまた同じように化学伝達物質が出されます。即ち、その情報伝達物質が次の神経細胞にある受容体にうまく結合すると正しい化学信号となる訳です。このような化学信号と電気信号のサーキットがうまく作動していれば良いのですが著しいホルモンの変化やストレスによって、化学伝達物質であるノルアドレナリン、セロトニン、ドパミンを使う神経系に異常が生じるとうつ病となります。早期発見をして、生活を変えて脳への負荷を減らし、自殺を防がねばなりません。  

  • Posted by 丸山 悦子  at 15:41Comments(0)脳神経生化学