2010年11月01日
紫式部はアントレプレナー第一号?

秋雨で紫式部がたわわに、実がいっそう紫を増しました。
園芸店で売られている紫式部は、小式部(和泉式部の娘)が本名で、山野で見かける、実が少なく質素な感じの方が本当の紫式部とのことです。
清少納言が紫式部のライバルのように思われますが、実は、宮廷で同じ中宮彰子に仕え、既に和歌の才能を発揮していた和泉式部(36歌仙の一人)が、紫式部のライバルでした(図、参照)。
いずれも娘をつれてのご奉公ですが、和泉式部親子は、貴公子達の人気の的で、恋多き女性、として有名です。
思えば、私は、「古典はコテ~ン、コッテン」とか言いながら、文系組に教科書を抱えて移動、しかし授業中の頭の中は、いつも方程式の解を求めていました。が、どうでも良いことは、しっかり頭にあります。
紫式部は不美人、頼りの父親も越前に下向させられ、晩婚に、そして高齢出産。
高齢な夫は直ぐ亡くなりシングルマザーに、こういうわけで、頭は良いのだが職が見つからないーーなどなど。
ところが、紫式部は小さい時から物覚えが良く、当時男子だけの学問であった漢籍に長けていたため、名が知れ渡り、やがて宮廷の教育係りへと参内することとなります。

藤原道長は、その権力を文化の育成にも大いに発揮します。
時は、摂政関白の時代、朝廷政治にも参入すべく藤原道長は、一条天皇には、中宮定子という后がいるにもかかわらず、自分の長女の彰子(しょうし)を、一条天皇の后として入内させます(図、参照)。
道長は、枕草子で有名な才女、清少納言を抱えている中宮定子に負けじと、中宮彰子には、漢詩、漢学に目聡い、紫式部を房のブレインとしてスカウトするのです。
宮廷に仕える、中、下流貴族出身の女房達は、家督の栄光のためにも、また女官へのステップアップのためにも、男性の学問である仏典や漢詩に研鑽します。
そして、漢語を日本でアレンジした、仮名、で和歌やものを書きはじめ、競って能力をアピールすべく、女性が元気な時代を作りはじめたのです。
こうして平安中期(1000年)には、女流日記文学が花開きます。
宮廷の様子を書いた清少納言の「枕草子」、藤原道綱の母による、多くの妻を持つ夫(兼家)への長嘆息であり、通い婚制度への批判ともみられる自伝「蜻蛉日記」、菅原孝標の娘による、源氏物語をまねた回想録的フィクション小説である「更級日記」、宮廷の恋愛小説である「和泉式部日記」があります。
これらは日記と言えども、今の日記にあらず、必ずや女性の立場に、視点がおかれています。
さて、紫式部の書いた「源氏物語」は、と言いますと、道長は、紫式部の才を認めていましたので、女房の部屋にやってきては作品を促します。
この点が、あふれ出る思いを綴る、他の女性の作品と違います。
当時の恋愛は、貴婦人は、人前には顔を見せないことが奥ゆかしいことでしたので、中将たちはその後姿に恋焦がれ、女房にキューピット役を頼む、というパターンでした。
ですから、女房の間では、あらゆる貴公子達の恋愛の話に尽き果つことがありません。
貴公子、光源氏の恋愛話は、当然ながら、女房の間で人気の的。その面白楽しさを伝えようと、書き写されて、読み回しもなされます。
しかし、紙や墨は高価なもので、簡単には手に入りません。そのサポーターとなったのが財ある道長でした。
物書き、と言うのは、自分が書きたいから書く、はずです。
が、紫式部は特化した才能と、道長というパトロンを得て、自ずと文筆の新起業家となったに違いありません。
<宮中キャリアーにパトロンの後押し>
道長は、「あっち(中宮定子)が随筆(枕草子)なら、こっち(娘の中宮彰子)は小説だ(源氏物語)!」とばかりに、房を増設したり、才女には、その世話係りまでも雇ってあげたりして、思う存分執筆の仕事をさせてあげたようです。
むろん、宮廷の房、というサロンが、才女達の作品発表の場として、拡充されました。
遂に!!サロンには、文学が趣味の一条天皇も足繁く通い始めーーー道長はシメシメ。
紫式部は、こうして権力者達に気に入られ、執筆に拍車が掛かります。才能あるが故ですね。
54帖という世界一長い小説となったのは、道長が紫式部に「もっと書け、もっと書け」とーーー、さもありなんです。
そういえば、研究・論文の仕事もまさに個人事業主的です。
パトロン道長のような研究室もあったかも~~
さて、一昨年が、源氏物語千年紀。
夜もすがらの王朝貴族たちの雅な?社会と政略闘争の背後に、私は、女性新起業家の捗捗しい台頭を感じます。
<起業の成功>
紫式部に問はずとも、起業家の成功に必要なものは、才能、ファンド、マーケット、ですね。
ファンドといえば、欧米では、寄付者の名の付いた文化施設や大学のファウンデーションが沢山あります。
日本の隠れ大金持ちの、社会貢献事業や文化創出のための寄付・基金への志しは、藤原道長と較べずとも、希薄と言わざるをえません。
エンジェルさんが増えて欲しいですね。
えっ、「早く、自分で起業を成功させて、そうなれ!」、天の声??かしら、んん。