2012年09月11日
ハーブはハーブでも・・合(脱)法ハーブは、

カサブランカはポルトガル語で‘白い家’です。
その名にふさわしく3枚の顎片も3枚の花びらも真っ白で、花の大きさも百合の中で最大です。
カサブランカと言えば映画の「カサブランカ」のシーンが思い出されます。
その舞台はモロッコのカサブランカという一大商業都市(図の左上)です。
時は1941年、ナチスドイツはポーランドを奪い、フランスを制覇し遂にフランス配下の北アフリカのモロッコまで侵攻してきました。
地下レジスタンスの夫とともに自由の国に脱出しようとモロッコに来た彼女ですが、追い詰められてもう時間はありません、残る手は一つーーー
彼女は、自分から黙って去ったかつての恋人に頼むしかない、と悟ります。というのは、偶然にもカサブランカでバーテンダーをしている彼と再会し、何と彼は闇の世界に通じている人間であることを聞き知ったからでした。
夜霧が煙る空港を、彼の機転によって夫妻は危機一髪で自由の国に飛び立つのです・・・・
命を守るためにヒトは逃げる知恵を得ました。
植物は外界の刺激に対抗して多種多様の分子を代謝産物として創出しました。

百合の香りは芳香族化合物の中のテルペン類であるリナロールによるそうです。
芳香を特徴とする分子はヒトの脳にはリラクゼーションをもたらしアロマ剤として使われます。
植物にとっては、良い香りによって虫を呼び寄せて受粉の効率を上げ種族維持というわけです。
また生き残りを賭けて、害虫やウイルス、細菌感染から逃れようと、病害を修復しようと、いろいろな分子を進化の過程で獲得しました。
中にはヒトに死をもたらす毒物も少なくありませんね。
ケシのアヘンや大麻のマリファナの成分が植物にとってどんな役目があるのかは謎です。
しかし私たちにとっては、これらに含まれる分子が中枢神経に激しく作用し耽溺をおこすので、向精神薬として医師の処方箋を必要とさせ、法で規制しています(図、右上)。
これらは量と投与法によっては治療薬としても使われ得ます。しかしその強い薬物依存性は、特に発達段階にある若年者の濫用は、神経情報伝達が正しく制御できなくなってしまい人格が破綻するので厳しい規制が必要なのです(図、左下)。
近年新たな大きな問題が出てきました。
それは化学合成技術の向上によって膨大な数の類似構造体が合成可能となり、さらにネット販売のグローバル化によって、その薬理作用も未解析のままに容易く人々の手に届くようになってしまったことです。
化学式が同じでも鏡像体では効果が何倍も強くなったりするのです(参考、図2)。
天然成分が入っていないいわゆる脱法ハーブなるものがお香や芳香剤の名で広がっているのです。「Spice」「Aroma」「Dream」など多数です。どんな危険な分子が混入しているかは想像だにありません。
ですから先日、厚労省が個々の分子でなく、とにかく精神に作用する分子を規制する法律を作る、としたのは快挙ですね。
<脳の内在システムを壊す類似の合成分子>
向精神薬の怖さは、一時の酩酊、多幸感が身体に耐性を作って離脱症状をもたらすことに尽きます。その部位はというと線条体の前下方の数mmの側坐核です。
多幸感は線条体近くのドパミン系が活性化され、伝達物質であるドパミンが放出することによる、と考えられます。しかし快感中枢には前頭前野、扁桃体、海馬などからの入力があり、その効果には多くの要因が複雑に絡むため耽溺や異常行動、呼吸や心臓への害の表れ方は他の薬の既往歴など、個人差が激しく危険度は推し量れません。
やはり、シアワセは薬に頼むものではないですね。
<内在性分子と受容体の生化学>
私たちの脳内では、オピオイド受容体(モルヒネ受容体)に結合して鎮痛作用や多幸感を起こす故に‘脳内麻薬’と言われるオピオイドペピチドや、神経情報伝達物質のドパミンに由来する分子が内在的に合成されています。
オピオイド受容体にはδ、σ、κなど沢山見いだされつつあります。
また、脳には内在性カンナビノイドシステムがあります。
脳内にある内在性カンナビノイドはその受容体を通して脳の発達や神経細胞の生長を制御していることがわかりました。
このカンナビノイドの受容体に、大麻の耽溺の主成分、テトラハイドロカンナビノール(THC)やその誘導体が結合するのです(図、右下)。
合(脱)法ハーブに含まれるこのTHC誘導体や異性体は、親和性があるそれぞれの脳内の受容体に結合して細胞を異常にして、そして脳機能を破綻させるのです。
カンナビノイド類の脳内分子機作は未だ解明が難しく、これまでカンナビノイド受容体CB1が中枢神経系に、CB2が抹消に存在すると考えられて来ました。
ところが最近、脳でこのCB1とCB2の蛋白質は細胞膜上で結合して内在性カンナビノイドの受容体を形成していることが報告されました(参考)。
新規の受容体が発見されると構造生物学やバイオインフォマテイックスによってその受容体への結合分子の候補が浮かぶことでしょう。
そして新規脳内生理活性分子としての確立は遺伝子解析によるよりは化学合成や精製の生化学、そして細胞生物学が役立つに違いありません。
こうした研究成果を生かして、精神病で苦しむひとりひとりに適切な新たな治療薬が開発されることを願って止みません。
Posted by 丸山 悦子 at 23:17│Comments(2)
│脳神経生化学
この記事へのコメント
Heckuva good job. I sure apeiacrpte it.
Posted by Missi at 2014年06月04日 06:21
Dear Missi
I feek happy for your comment.
We have to protect the molecules in the brain from damage,
possibly caused by stress,drug,infection,food imbalance・・・
The creative minds make the earth in peace,not piece,
I think.
Etsuko
I feek happy for your comment.
We have to protect the molecules in the brain from damage,
possibly caused by stress,drug,infection,food imbalance・・・
The creative minds make the earth in peace,not piece,
I think.
Etsuko
Posted by Etsuko Maruyama at 2014年06月05日 22:28