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2012年06月10日

健康の分子マーカー探索に新兵器!!

健康の分子マーカー探索に新兵器!!<大海の砂粒を探す術はーー>
健康の分子指標は大海の砂粒の如し、です(図、左上)。
しかし計測技術を高め個人の測定値を得て、そのデータを管理・情報化していけばきっと健康長寿がもたらされます・・・・


ドイツのミュンヘン大学において超微量で瞬時に生体成分の結合反応速度論的解析が出来る器械が開発されました。
温度泳動的生体分子間相互作用解析装置(MST)です。

これまで生体成分の検出法としてはELISA法やSPR法が汎用されています。

ELISA法では検出したい分子に結合する分子を固相化しておき目的分子を結合させてからさらに標識をつけた別の結合分子と反応させます。標識の酵素活性や光学的性質を用いて測定値を得ます(図の右)。しかしそのためには結合後にB/F分離という未結合の成分を良く洗う操作が必要です。

SPRセンサーもチップ上で生体成分と親和性を持つ分子を固相結合させます。この場合は標識分子を使う必要がなく、複合体生成で増大した質量によって生じるプラズモンの変化を電光的に検出します(図の右)。数千万円、と高価です。

MST法による検出は原理が全く異なります(図の左下)。
多成分混合系において局所的にわずかの温度を上げることによってできる温度依存的な濃度勾配による蛍光標識分子の蛍光強度の変化から分子動力学計算をします。

その開発者は社長でもあるミュンヘン大学のDuhr博士です。
分子の温度泳動理論に基づいて核酸の構造安定性の解析や生体成分の検出の応用研究に邁進されています。

MST法ではより生体内に近い状態とすべく、上の二つの装置とは異なりキャピラリーの溶液中で結合反応を行います。
キャピラリー(径、0.1 mm)の反応溶液量は~250 nlで米粒の百分の一の量もいらないようです。そして測定時間といえば一分以内という迅速さです。
本体はパソコンサイズです。

さらに素晴らしいのがソフトウエアです。16本のキャピラリーに同時にサンプリングして一気にキネティクスの値が得られるのです。
日本にはまだ一台、1500万円とのことです。

<なぜバイオマーカーの発見が難しいのか>
どんなセンシング技術がバイオマーカーの発見をもたらすのでしょうか。

ゲノム塩基配列は生物を構成する蛋白質やRNAの設計図です。
ところが遺伝子から読み取られる各個人の蛋白質は遺伝子の突然変異やSNP(本ブログ )のためにまた後天的なDNAの修飾(本ブログ )によってその発現のレベルや分子構造が多様に変わり得ます。
またアルツハイマー病やうつ病でおきるという蛋白質のプロセシング異常では蛋白質の大きさが違ってきます。
これらの変化は当然、相互作用する分子の相手や結合の親和性などが変わり代謝異常や疾患の原因となります。
例えば酸化ストレスによる酵素の修飾による構造的変化とそれがもたらす結合パートナーの選択の変化は細胞の生死に関わるシグナル伝達を大きく変貌することが生化学的に示されました(本ブログ)。
確かにこのような生化学的な解析技術はナノの世界(本ブログ)を超えつつありますがその工程の複雑さのために生化学者でも並みの技と時間ではなし得ません。
そこで期待するのが準備や操作がシンプルでかつ分子間の解離定数を数分で検出してくれるこのMST法なのです。

<キネティクスで疾患の解明>
自分の血液中に自己抗体が出来てしまう難病は重症筋無力症や全身性エリテマトーデスなど多く知られています。

Lippok らは自己抗体疾患であり心臓の病気である拡張型心筋症についてMST法を用いました。

拡張型心筋症ではβ1アドレナージック受容体に対する自己抗体が血清中に増えてしまい、それが細胞外の受容体部分に結合してしまうので心筋細胞内へのシグナル伝達情報が過多となり心臓が障害されてしまいます。

そこで彼らはβ1アドレナージック受容体の細胞外アミノ酸配列部(COR1)を合成して標識分子として、まず健常なヒト血清中の自己抗体について解析しました。(参考)。

ヒト血液中には抗体分子である種々のイムノグロブリンが高濃度に存在しています。ですからクルードなサンプルでダイレクトに解析できたことは極めて快挙です。創薬の開発にも貢献するでしょう。

この研究結果は自己抗体が約100 nMと検出されたので、血中IgGが10 mg/mlとすると1000分の1くらい、この自己抗体があることになりますね。患者サンプルとの比較の解析結果が待たれます。

私たちが測りたい分子(図、左上)はストレスや環境の変化に応答しやすく、その測定値は個人の状況の違いによっても変動が大きいでしょう。

従って、どんなサンプルにも対応出来、広いレンジ幅で測定出来る、そしてキネティクスの値が即座に得られる、というMSTの測定法はホープとなりそうです。









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    Posted by 丸山 悦子  at 19:55│Comments(0)脳神経生化学
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