2012年11月13日
長息が長生きの理由

私たちが活動できるのはミトコンドリアがATP(アデノシン3燐酸)を作るから、と学校で習いました。
ミトコンドリアは大腸菌ぐらいの大きさで細胞の中でウジョウジョと何百、何千とひしめき合って融合したり分裂したりしています(図、右上のニコン社のN-SIM超解像ライブセルイメージング)。
運動選手の細胞内には元気なミトコンドリアが沢山とかーー
ところで動・植物のミトコンドリアや植物の葉緑体の起源は、それらのゲノム構造やヒストンがないことなどから、大昔に私達の祖先の細胞に入り込んだバクテリアである、と考えられます(図、左上)。
地球上に酸素が増え始めた20億年前頃、真正細菌は酸素を使ってエネルギーを作れるプレシャス?細菌でした。そこでそのワザが欲しい古細菌が一緒になりましょう、お願いします、と・・・・パクリ。
さあ、元気百倍(10倍?)、多細胞生物にだってなれるゾ~
というわけで私たちの祖先の誕生です。
<母は強し。。。>
不思議なことに私達の身体のミトコンドリアは全て母親由来です。
一個の卵細胞には何万とミトコンドリアがあります、しかし受精にあたっては父親からのミトコンドリアは入っても用なしです、とばかりに排除されてしまいます。
核の遺伝子は父と母から1セットづつなのにミトコンドリアの遺伝子は母親と同じもののみ・・・
さらなるミトコンドリアの特徴として、分裂が激しいのでその遺伝子変異が極めておこりやすいことがあります。
卵細胞のミトコンドリアを傷物にはしたくありませんね。おくるみしておきたいほど愛しい?。。。
貴女の細胞環境は良好でしょうか?
<共生による大躍進>
さて20億年前の細菌同士の合併・吸収はその後どうなったでしょうか。
解糖系だけだと2個のATPしか作れないのが好気細菌の電子伝達系とATP合成、すなわち酸化的燐酸化の能力が加わったおかげで10倍以上増産できました。
飲み込まれた真正細菌の膜にあった電子伝達系、いわゆる呼吸鎖はミトコンドリアでは内膜上に位置することとなります。
複合体ⅠからⅣまでの大きな蛋白質の酸化還元反応によって電子が複合体Ⅳまで流れるとともにプロトンが膜の外に汲む出されることになります。
内膜と外膜の間に貯まったプロトンは勾配によって複合体ⅤといわれるATPエースに入り込み、酵素の構造を変えて活性化しATPを産生するのです(図、左下)。
M&Aの成功です。さらに新たな拡大も。。。
やがてミトコンドリアは、障害が修復できなくなると自らを殺すプログラムを獲得しました。ホストの核で合成された細胞死を実行する蛋白質をミトコンドリアに局在させました。いわゆるアポトーシス実行部隊が完備されたのです。
こうしてミトコンドリアは細胞の生死の制御を繰るようになりました。
癌やアルツハイマー病、パーキンソン病の原因もミトコンドリアの異常によるといわれています。
<アルツハイマー病で障害されるミトコンドリア複合体Ⅳ>
M & Aによる成功戦略はミトコンドリアが自分で生きていかれる遺伝子のほとんどをホストの細胞の核に移動させたことにあるかもしれません。
呼吸鎖がうまく働いていても活性酸素が生じ、DNAなどの障害の原因となります。ホストの核にDNAを非難させておけば安心して増殖できる・・・
今やミトコンドリアではたったの13個のミトコンドリア遺伝子で蛋白質を発現するのみです。ですから呼吸鎖の各複合体の構成蛋白質は核の遺伝子と自前の遺伝子によって作った混合です。
呼吸鎖で電子を受け取る最終アンカーの複合体Ⅳ(図、左下)はサイトクロームcオキシデースです。13個のサブユニットからなる分子量25万くらいの大きな内膜貫通型の蛋白質です。
ウシ心筋のサイトクロームcオキシデースの膜内構造が示されました。
最近、そのサブユニット1(左上をクリック) にアルツハイマー病で蓄積してくる原因分子のAβペプチドが結合するという論文がでました。結合場所は電子をこの酵素が受け取るコア部分です(参考、図の6)。
肝心要の呼吸鎖に他の分子が結合して電子の流れが障害されると、ATPが出来なくなるばかりでなく活性酸素が沢山発生し、ミトコンドリアの活動のみならずDNAも障害されることとなります。ちなみにこのサブユニット1はミトコンドリアにある遺伝子が作りますからAβの結合はこの遺伝子にもすぐ影響しそうです。
神経細胞で障害が修復しきれなくなると神経細胞死がおきます。神経変性疾患となり痴呆がすすみます。
私たちは日頃から細胞内の抗酸化力を高めたり、サイトクロームc酸化酵素が電子を受け渡せるように酸素を十分供給することが重要となりますね。
ため息ではなくして長息で、元気なミトコンドリアを細胞にいっぱい増やしましょう!

75歳を越えてもエピジェネティクス研究のためにヒストン修飾の膨大な数字データの解析をしていらっしゃった先生のお姿が重なります。
光陰矢の如しです。
分析器械は精巧化してきますが測定に賦する標品の調整はいまなお生化学のなせるわざですね。そう思って科研費の獲得にも頑張っています!!